かくて世界は浮遊する｜リアクション

かくて世界は浮遊する

　「……」

　にゃかいぷにいるメンバーが思案するように一斉に沈黙する。海が指摘するように『どうして九夜山を浮かばせたのか』という点に関しては誰も予想していなかったのだ。
　『うかばせるきはほんとうはなかった、とか』
　と、海が言葉を続けた。
　「……可能性として考慮する必要はあるが、現段階では浮遊の原因を判明させなければならないな。要石がトリガーだった場合、要石の運搬方法も考える必要がある」
　沈黙を割ったのは修だった。事態の外側にいる彼はきわめて冷静に物事を見ている。
　「え？　無重力だから簡単に動かせるんじゃないのだー？」
　にゃかいぷの参加者の多くが持ったであろう疑問を代弁する真央。
　『慣性質量の問題だな』
　今まで沈黙を守っていた龍八がチャットでそう発言する。何故、チャットで入力しているのかの真意は不明であるが、彼は物理が得意であった。
　「そうだ。分かりやすくいえば、『質量の大きいものほど動かしにくい』」
　修が簡単に説明をする。
　「っと、ご説明中申し訳ないけど、邪魔するぜ！　寝子島式偵察機『武道』と～」
　会話に割り込むように武道が明るく楽しい声を発する。
　「同じく、『凛』が寝子島上空からご報告しちゃうよ♪」
　そして凛が少し大きな声で続ける。
　「こちらは高度かなりあるんで肉眼じゃよーくわかんねーけど、九夜山山頂、三夜湖方面へ向かう巨大な『なにか』が確認できるぜ！」
　と、てきとうなノリで説明する武道。
　「形状的にはお魚？　かなー。土っぽい色してるよー」
　凛も報告をする。
　「了解。鯰説が有力にはなったか。三夜湖に向かってる人は気をつけるように」
　何かを思案するように修が返事をする。
　「ところで、『三夜湖の幽霊』については水口さんから聞いてないの？　もしくは知っている人、いる？」
　エヴァが思い出したように尋ねる。
　「ごめーん、ブランシェさん。水口さんから聞くの忘れてたよ～」
　ろっこんを使いながら要石へと移動中のしおりが答える。
　「『三夜湖の幽霊』か。おそらく四月の寝子島タブレットの記事のことじゃないのか？　もしくは水場というのは幽霊などの逸話が多く残されやすい傾向はある。有名なのは舟幽霊と呼ばれる類だが……」
　鋭二がエヴァの疑問に答えようと詳細に解説しようとする。
　「ああ、それ。僕が４月に怖い話で驚かせたせいか、水口さんがえらく気にしててね。熱心に供養方法なんかも調べてたよ」
　と、天野が割り込み気味にネタばらしをする。
　「ガセネタなの！？」
　『三夜湖の幽霊』について調べようとしていたエヴァが悲鳴を上げる。
　「寝子島のことだし案外、実在しているかもね？」
　天野としてはフォローしているつもりだが言い回しがどこか意地悪そうな響きになる。
　「……っ！」
　言葉にならない声を上げるエヴァ。

　「盛り上がってるところ悪いんだけどー」
　と、円が会話を割って言葉を発する。そしてその声に続けて刀が短く告げた。

　「砂掛谷で地面に突き刺さった烏の羽『だけ』発見した」