ブラック・ブラックの夜｜リアクション

ブラック・ブラックの夜

◆9:24　ジャスティスこそ正義

「ザ！　ストォォォレィイィ、トゥッ！」
　突如、横合いから叫び声とともに現れた右拳が影人間の頬をえぐって吹き飛ばした。
　折り重なったアーマーの付いた腕部。拳に輝く赤いパーツ。額に輝くSの文字。
　被っているヘルメットに備えられたミラーシールドが陽の光を反射して、眩く光った。
「我が名は、ザ・ストレイト！　正義とかジャスティスのヒーローだ！　俺は名乗った。お前も自分の名前を名乗れ！　……あと、お前……大丈夫か！」
「正義とジャスティス……意味が被っているぞ。と、言うか我を物のついでのように扱うな」
　二転三転とポーズを決める全身スーツ姿の男へ、葦原が緩やかなツッコミを入れる。
　そして黒化した右腕を地面に叩きつけ、ヒビの入った部分から服と癒着した膜をベリベリと剥がした。
「ジャスティスはズパーッとしてて、正義はガチっとしてるから、いいんだよ！」
「何処ぞの野球監督のような物言いだな……しかし、助かった。礼を言う」
「構わねぇよ、人助けはヒーローの仕事だ！　……それよりも、来るぞ！」
　ろっこん『戦衣着装』で自作のヒーロー衣装に変身した風雲児轟――ザ・ストレイトは、ヘルメットの中の眼光を光らせた。
「何なんだよ次から次へとアレやコレやぶっちゃけまくってくれやがって……あ？　ヒーロー？　ごっこ遊びは……他所でやれやァ！」
　激高した影人間の後方から、強風が吹き荒れる。影人間はその風邪を受け止めるように手を広げる――と、指の間から黒い霧が現れ、風に乗って風雲児達を襲う。
「何……だ、これは！」
　視界を覆う黒い霧に目を細める。
　前が見えない状況と、何よりも――能力の範疇を超えているような影人間の動作に――刹那、混乱した。
「おう、ヒーロー、さっきの礼だ……受け取れ！」
　霧をかき分けて現れた影人間が、風雲児の脇腹を勢い任せに殴りつける。
　くぐもった声を上げながら、膝をつく風雲児のヘルメットを鷲掴みにして、影人間は歯を剥き出しにして笑った。
「なぁなぁ、なぁんで白いの？　やっぱヒーローっつったらさ……ブラックっしょ」
　頭部から首、肩、胸元――次々にスーツを染め上げられていく風雲児を見て、葦原が影人間へ手を伸ばす――と、突如として黒い霧と影人間が『地面に打ち付けられた』ようになった。
「ぬ、ぅ、あ……！？」どこまでも黒い口元から、苦悶の声が上がる。
「スタァンド！　バァイ！　ミィィィィイイ！」
　必死で起き上がろうとする影人間を、『兜を被った男』が殴りつけ、地面から引き剥がした。
「派手にやってんな、おい。俺も混ぜろよ」兜の男を背後に従えて――空里花が拳を付き出す。
「ってか、何々。ヒーローショー？　微妙に半分だけ黒いし。前衛的じゃん！」風雲児に肩を貸して、新井が笑みを浮かべる。「あと、二十二分……と、ニ十秒ぐらいかな」
　――似非ヒロイズム。新井が他人を助けたいと思ったとき、一日計二十三分間、重力を操れる能力。
　その能力を使って、影人間を地面に固定。そしてその後に空里花が、ろっこん『傍に立つ者（スタンド・バイ・ミー）』を使い剣闘士の霊を召喚し、攻撃する。
　相手を固定して殴りつける、という肉弾戦において非常に強力な手を打った――はずだったが。