月が雲に覆われた、暗い、暗い時間。
冬を思い起こすような、冷たい風が身に染みる――そんな五月の、ある夜。
ポツリ、ポツリと街灯が照らす路地を歩く人影があった。
パーカーに付いたフードを目深に被り、しかし寒さに震えるわけでもなく、淡々と足を進める。
道の真ん中を歩いていたかと思うと、突然に方向を変えて街灯へ手を置き、何かを呟いた。
すると、薄ぼんやりとした光を放っていた街頭の明かりがスゥっと消えた。
人影は、少し上を見上げると、再び歩き始める。
――と、次の街灯へ手を伸ばす。
「……駄目だ」
小さい、口の中で消え入りそうなその声は、それでもはっきりと嫌悪に満ちていた。
そして、街頭の明かりが再び消え、闇が広がった。
フードの奥の双眸は、次の街灯――その手前に設置された郵便ポストを捉える。
「赤。赤いな、赤い……駄目だ」
接近して、触れる。
次の瞬間、手を離した時にはすでに、郵便ポストは黒く染まっていた。
塗り潰され、染め上げられた漆黒のポストの感触を確かめるように撫でる人影が、道の傍らに停められていた数台の車を見て、舌打ちをした。
赤、緑、黒、白――様々な色の車が綺麗に縦列駐車されている、その横を、ゆっくりと品定めするように歩く。
「駄目……駄目……良し、駄目……駄目……良し、良し」
トン、トン、トン、と一定のリズムで、車に人差し指を当てていく。
全ての車を通り過ぎると、人影は、ゆっくりと振り返った。
「……パーフェクト」
満足気な声を上げる、その人影の視線の先には、綺麗に駐車された黒い車がズラリと並んでいた。
ふ、と人影が空を見上げる。雲間から月が覗き、フードの中を照らした。
肌のみならず、眼球の白目部分、薄く開いた唇、そこから見える歯に至るまでが、全てを飲み込むような漆黒だった。
まるでそれは、陰。あるいは、影。
かろうじて、顔の造形から『青年』であることが汲み取れるが、彼の周りには――幸いにも――それを見た人間は、誰も居なかった。
「忌々しい……この指の先でも触れさえすれば……」
青年が、心底うんざりした声を吐き出しながら月を睨む。
その時、夜空に穴を開けたような月を横切る、黒いカラスが現れた。
カラスは二、三度空を旋回すると、すでに青年の手によって黒くされた信号の上に止まった。
「クァーア。アホー」まるで欠伸でもするかのように、カラスが鳴く。
「……やぁ。相変わらず、素敵な羽の色だね」
青年は、先程までとは別人のように穏やかな口調で呟きながら、カラスに視線を送った。
しかし、カラスは動かない。
やがて、再び月が雲に隠れ、カラスが暗闇に溶けていく。小さな鳴き声を残して。
「……うん。そうだね、そうだ。もっと、もっと黒く。黒く。黒く……ックック、フフフ」
パーカーの胸元に挿した黒い羽根を撫で、笑いながら、青年もまた闇に溶けるように暗い路地へと消えていった。
――翌朝、寝子島シーサイドタウン駅は、これまでにない人数で埋め尽くされた。
電光掲示板には、数々の運行中止の文字。
鮮やかな水色の電車が、何者かによって窓ガラスごと黒く塗り潰されていたのだ。
のみならず、シーサイドタウンの様々な物――信号機、ポスト、ビル、道路、花――なども黒くされている。
そして駅には、「ただの悪戯ではない」と不安を募らせ、騒ぐ人々を半眼で見る一匹の猫――テオがいた。
小さく開けた口の中で歯を鳴らし、右前脚を振り上げる。
『あぁ……面倒くせぇ。後は何とかしとけよって……なっ!』
繰り出された猫パンチによって、世界――寝子島が、切り分けられた。
お久しぶりの方は、お久しぶりです。
はじめましての方は、はじめまして。歌留多と申します。
さて、さっそくですが、簡単に要点を述べますと。
●黒パーカーの青年らしき人?
さて、彼は……何なのでしょうか。
何らかの『ろっこん』を持っていることは間違いなのですが……。
とりあえず、あらゆる可能性を考慮してください。
※アクション上の呼び方は、『黒パーカー』などにしておいていただくとわかりやすくて助かります。
文字数を削りたいときは『黒パカ』でも大丈夫です。アルパカみたいですけれど。
●アクション!
漢(おとこ)なら、拳で語れ! ……と言いたいところですが。
お好きに戦ってください。女性もいらっしゃるでしょうし。
あ、バトルです。バトルなんですよ、このお話。一応。
バッキバキに戦いましょう。お勧めです。
●というわけで
よくわからない黒パカを打ち倒すのです。
多少は強いので、その辺りはご理解とご共闘ください。
ボッコボコにしてやりましょう。
●ポイント
【黒パカは『黒以外の色が嫌い』らしいです。すごく】
【向こうもそれなりの対処はしてくると思います。たぶん。おそらく。きっと】
【おおよその戦闘範囲はマップ上で、I9を中心とした半径750メートルの範囲です】