ブラック・ブラックの夜｜リアクション

ブラック・ブラックの夜

◆11:11　テンポラリー・ワールド

「……打ち止めだ」
　辺りを見回すと、何の変哲もない寝子島が、そこにあった。
　そして、この不機嫌で、愛想がまるで感じられない声は――。
「まぁ、黒塗り野郎も相当ダメージ受けてるはず……しばらくは何も起きねぇだろ」
　鈍色の毛を風になびかせながら、鋭い眼光を光らせた猫――テオドロス・バルツァが、そう言って横に視線を逸らす。
　つられて視線を追う――多少、黒く染まったままの箇所もあるが、さほど時間もかからずに元通りにできそうではある。
　テオの視線が、別の箇所で留まり、片目を薄めた。
「まだ本調子じゃないんだから……怪我人は、おとなしく、ね？」
「抱えようとするな。触るな。自分で歩ける」
　周囲の目も気にせずにブーメランパンツ姿のままの尾鎌が、草薙を連れ立って何処かへ姿を消した。
　その後ろ姿を見て、テオの尻尾がタスン、と地面を打った。
「……アイツは？　クローネ……それに、ハクア……？　とかいう奴も」
「逃げた」
　ぶっきらぼうに応えるテオの瞳は、空を見ていた。
　桜井が、自らの太腿に拳を叩きつける。
「テオ」横目に桜井を見ながら、御剣がテオに近寄り、屈む。「この羽根……いったい、何なんだ？」
　地面から拾い上げたクローネの羽根を、御剣がテオに見せる。
「そいつは…………ただのカラスの羽根だ。捨てちまえ、気味悪い。不吉の象徴だぜ、そいつは」
「不吉の象徴……本当に、それだけか？」
　御剣が食い下がる。ろっこんが発動しなかったことに対しての言及だったが、テオは微動だにしない。
　フン、と鼻から息を漏らすテオに、大天使がぼんやりとした眼差しを向けた。
「……一概にそうとは言えない……かも。カラスは昔から、恐れられたり、崇められたり……色々だから」
　御剣の言葉に、大天使はテオを見たまま、呟く。
　テオは仏頂面を崩さないまま大天使を見ていた。
「恐れ、ってのは何となくわかるけど……崇められ、って？」
　何とはなしに興味を示した猫村が、問いかける。
　大天使の視線は、テオに向けられたままだった。
「……うん。カラスは、昔から色々なイメージが……有るの。例えば、魔女の使い……とか」
　背後から吹く風に流される髪を抑えながら、節目がちになって続ける。
「……神の使い、とか」
「………………ケッ。くだらねぇ」
　テオは吐き捨てるようにそう言ってから塀に登り、何処へともなく消えた。
「変な……猫……」
　大天使は僅かに眉を寄せながら、塀の向こうを見つめていたが、やがてフラフラと歩き出した。

　その場に残されたのは、斑な黒と――『普通』の世界。
　――やがて太陽が沈み、寝子島に再び夜が来る。
　暗くて黒い――夜が来る。

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あとがき

担当マスター：歌留多
ファンレターはマスターページから！

　歌留多です。
　ご参加いただいた皆様。ありがとうございます。
　ここまで読んでいただいた方へ。ありがとうございます。
　ここから読んでいらっしゃる方へ。ありがとうございま……す？

　参加していただいた方も、していない方も、楽しんでもらえればと思います。
　……みたいなことを、前回のあとがきでも言ってたな、と思ったので見返したら、やっぱり言ってました。
　完全に同一ではないのでセーフです。セーフ。

　なにはともあれ。
　また機会がございましたら、覗きに来て下さい。
　そして、遊んでやって下さい。
　では、失礼します。

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