ブラック・ブラックの夜｜リアクション

ブラック・ブラックの夜

◆9:32　トラッパーズ

「オイオイオイ、アレだ。コスプレ会場か。笑えてくるなァ、マジでよぉ」
　影人間は、ゆっくりと起き上がると、首を回して、新たに現れた二人に笑みを浮かべた。
「ノーダメージ……だと？」空里花が目を細める。
「……何か、ありそうだな」同伴していた如月も影人間を視界に捉え、口中で呟く。
「か、硬ッ！　硬いッ！　むぅ……君！」
　黒化した風雲児のスーツから膜を剥がそうとしていた新井が、影人間へと叫ぶ。
「この状況、ぶっちゃけ、かんなーり不利なんじゃない！？　謝るなら今のうちなんじゃないかなー！」
　腕に力を込め、『わざと』大きな声で会話をしながら、新井が如月に一瞬だけ視線を送る。
　それを受けて、如月は注意して見なければわからないほど小さく頷いた。
「ゴメンナサイ……出来るよね！」
　新井が再び、似非ヒロイズムを発動させる――と同時に、如月が影人間へ向かって駈け出した。
「ク、ソが……ッ」
　過負荷を生み出す重力に襲われ、膝をついた状態で動けない影人間に接近した如月は、自らの額に指を添える。ざらついた傷口の感触を指に感じると、如月の右腕が蒼く輝いた。
「この一撃で、決めさせてもらうぞ」
　鋭い眼差しを浴びせ、如月は、ろっこん『蒼穹』を発動した拳を影人間へと振り抜いた。
　激しい音を立てて――影人間の体が、ガラスを砕いたように『粉々に砕け』散る。その気になれば岩をも砕ける力があることは確かだ、が――人を砕くほどの力は出していない。
「……！？」想定外の事態に、如月が目を見開く。
「後ろだ！」
　空里花の声に振り返ると同時に、影人間の足が如月の腹部にめり込む。
「どこ見てんだ？　ん？」不釣り合いに軽やかな声で、影人間が尋ねた。
　さらに身体を反転させて繰り出された影人間の追撃を何とか躱し、如月が口中の血を吐き捨てる。
　――口元に笑みを携えて。