ブラック・ブラックの夜｜リアクション

ブラック・ブラックの夜

◆10:52　Full

「いつまで遊んでいる」
　見かねた草薙が、掌を正面へ構えて『破空法』を放った。
　吹き飛ぶ影人間の腕を掴み、尾鎌が回転、勢いを活かして空中へ放り投げる。
　――浮き上がった先で、待ち構えていたのは、新井。
　似非ヒロイズムを自身へ使い、重力を軽減。飛び上がった状態の高々度から、重力を反転。一気に負荷の掛かった自分の身体を、影人間へ叩きこむ。
「ぐ……ヌァ！」
　苦悶に満ちた表情を浮かべて背中から影人間が落下し、地面にヒビが入る。
「仕留めさせてもらう！　スタンド・バイ・ミィィイ！！」
　力の限り、叫び声を上げたのは――空里花。
　呼び出された剣闘士拳が、仰向けのままだった影人間の腹部にめり込む。
　空気と共に液体が喉の奥から溢れる音が、影人間の口から鳴る。
　口の中に溜まった赤黒い液体を吐き捨て頭を振り、影人間が手近にいた猫村に接近。
　その距離、五メートル。
　猫村は逃げず、自分の胸に手を当て、眼を閉じた。
　脈拍。心音。鼓動。
　自分の中に流れるリズムを感じ、そして合わせ、念じる
　掲げられた影人間の腕が振り下ろされ――空を切った。
　想定外の事態に目を見開く影人間に、猫村は『尻尾を振って』、鳴く。
　緑色のパーカーから覗く腕には、柔らかな毛が生え、頭部には猫耳。
　影人間と向き合う猫村の姿は、猫と人間を混ぜあわせた姿へと変貌していた。
　自分を猫へと姿を変える能力――トランス・キャットピープル。
　とっさの対応に完全に変身できなかったが、逆に狙い通り――しなやかな筋肉から生み出される身体能力は、猫村の速度を確かに上げていた。
　伸びたヒゲを爪で解き、猫村が影人間の周囲を疾走り、飛ぶ。
　撹乱された影人間を、正面から御剣の木刀が叩き伏せ――同時に、背面から『蒼穹』を発動した如月の腕が、影人間の脇腹を抉った。
「前後同時なら、『抜け』らんねぇだろ？」
　――体に纏った膜を、引き剥がし、囮として使用する。
　幾度と無く使われた――草薙曰く――『脱皮』のシステムは、脱ぎ捨てる方向が無くては使えない。
「あの『右手』も……そういうことか」
　御剣と如月が同時に下がったタイミングに合わせて、『三人の添木』が影人間へそれぞれ正面、左右から攻撃を仕掛ける。
「……どれを避けるのかな」
　唯一の退路である後退を選び、影人間が下がる。
「だ、よ、ね？」唐獅子が、嘲笑う。
　――控えていた八神が、影人間の背中に手を添えた。
　間髪入れずに膜を『分解』――膜の下も黒衣を着用していた影人間だったが、始めて全ての膜が剥がれ、白い肌が露出した。
「て、めぇ……！」
　息も絶え絶えに、背後の八神を振り払い顔に手を当て、膜を纏う――が。
「まだ、更生の機会はある……だから！」
　叫び、構えるのは――風雲児――ザ・ストレイト。
　踏み込んだ足が、アスファルトを震わせる。
　振り抜かれた渾身の右ストレート――『ストレイト・スマッシャー』が、影人間の顔面を撃ち飛ばした。
「……だから、今は」
　――ヘルメットの中からは、それ以降、何の声も聞こえなかった。