ブラック・ブラックの夜｜リアクション

ブラック・ブラックの夜

◆10:59　ラブ・バード・ラブ

　――眼下で繰り広げられる戦いを目にしながら、桜井はビルの屋上に留まっていた。
　多勢に無勢。
　このまま押し切れるのは目に見えている。
　それならば、加勢するよりも、気にかけるのは。
「……あなたも、鳥を探して？」
「……え？」
　不意にかけられた声に目を向けると、そこには猫島高校の制服に身を包んだ女生徒が、空を見上げながら金色の髪を風に揺らしていた。
　――影人間によって身体の自由を奪われた大天使だったが、八神の広範囲に渡る『分解』に巻き込まれて、拘束を解かれていた。が、そのことを桜井は勿論、大天使本人も知らない。
　そして大天使は、拘束されていた事実を気にせず――このビルの屋上で鳥探しを始めていた。
「鳥……見ませんでした？」
「いや、見てないけど……え？」
　繰り広げられる地上の戦闘と大天使を交互に見て、桜井は意味がわからず困惑する。
「……クァー」小さな鳴き声。それは、頭上の空から。
「あ……カラス」大天使がそう呟くのと、桜井が空を見上げるのは、ほぼ同時だった。
「クローネ……！」桜井が、名前を読んで高欄を握りしめる。
「……あのカラスの、名前？」
　空を見ていた視線を隣に写した大天使だったが、既にそこには誰も居なかった。
　不思議そうに首を傾げ、何かに気付いたように、再び空を見る。
「……綺麗」
　大天使がカラスを追って飛び立ったカナリアを見て、微笑んだ。