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ＭＦＳ！ ～あるいは全ての表現者に捧ぐ、夜半過ぎのＴＶショウ
『脱出！ 着ぐるみ包囲網２４時！』（７）
「ああ、良かった！ 無事だったのね……！」
「な、何とか……」
「大丈夫大丈夫。なんてことなかったわ」
多喜 勇生と神薙 焔が合流すると、深倉 理紗子は心配顔で、ふたりの怪我の有無を確かめます。彼女は内科医ではありながら、もちろん応急処置的な医療の心得はあり、大小なり怪我をした仲間たちには頼りになる存在です。
「よーっし、これで全員揃ったな！」
ぱしり、と拳を手のひらへ打ち付けた、楢木 春彦。各々手に入れた情報を交換すると、彼は逸るように、
「そんじゃ早いトコ、ケリつけよーぜ！ 視聴率だか何だかしんねぇケド、あんま長居はしたくねぇしさ」
「そうね。拝むとしましょうか？ 事の真相ってやつをね」
一条 紗矢香が指差した、古ぼけた看板。飾りっ気もない簡素なそれに、記されていました。
ここが、全ての始まり。『ゲイシー精肉店』。
店内は何の変哲もない、いたって普通の肉屋です。透明なガラスのショーケースの向こうに並ぶ、塊肉に薄切り肉、挽肉、ハムにソーセージも。それらはもちろん蝋で作られた偽物ではありながら、いずれも上質な肉であるように見えます。店の内壁は清潔そうな白いタイルで、赤い血飛沫が飛び散っているなどということもなく、良く磨き上げられてぴかぴかと光っています。
「僕が先に行くよ。いざという時は、僕を置いてすぐに逃げてくれ。大丈夫、着ぐるみなんかに負けやしないよ」
ナイフを引き抜いて構えたサキリ・デイジーカッターの先導で、一行は店の奥へと足を踏み入れます。
一家の居住空間は、締め切られたカーテンによって薄暗く、あちこちにぼんやりと灯るロウソクだけが、さして語ることもない彼らの生活を照らし出していました。
「！ これは……」
深縹 露草が、何かに気付きます。床に敷かれたカーペットをくるりとめくってみると、
「……見てください。血痕デース」
ぽつり、ぽつり。点々と続く血の汚れは染み付いて、巧みに家具などで隠されながらも、それは二階へと続いているようです。
自然。誰もが声を殺して、血痕の連なる階段へ足をかけ、きしきしと嫌な音を立てる木板を踏みしめ、二階へ。
「ここ……ですねー。たぶん……」
ぶる、と肩を揺らした屋敷野 梢。いつも虚勢を張りがちな彼女の震えを止めようとしてか、壬生 由貴奈はその手を何気なく取り、うなずきました。
「さ。終わらせよぉ」
扉には、アニメのキャラクターか何かなのか、可愛らしくコミカルなタッチの狼や虎、豹、熊のシールが貼り付けられています。賑やかな雰囲気が演出されているそこはきっと、子ども部屋なのでしょう。
かちゃり。ぎいぎぎぎ、と扉を開きます。
静かに音を奏でるオルゴールは、まるで子守歌。天上から吊るされているのは、愉快に跳ねる動物を模ったモビール。棚に収められている、いくつものおもちゃたち。壁のハンガーに掛けられている、赤ん坊のための小さな服。
締め切られたカーテン。薄暗い部屋に揺れる、ロウソクの炎。
床一面に描かれた五芒星に、奇怪な文様。そこらじゅうに散らばる何かの骨。おびただしい血痕。
ベビーベッドで蠢く小さな影が漏らす、ウウウウウ。ウウウ、グウルルウウウ。獣のような、低いうめき。
「……前回の放送を見た限りじゃあ、無害過ぎて誰もやってなかったがな。こいつが消えれば、着ぐるみどもも動かなくなるだろうさ」
夜海霧 楓が、断じます。
小さな小さな赤ん坊に、奇怪な猫のマスク。その肌は白く生気に欠け、まだらにぶつぶつと青い斑点が浮かび、ところどころに繋ぎ合わせたような黒い糸が這い、口元はべっとりと血に濡れて。漂う異様な臭気は、吐き気をもよおす腐臭。ぎらつく鋭利な犬歯の合間から漏れ聞こえる、グルルウ、グウウ、ウウウウウ。獣のようなうめき声。
ベビーベッドの柵に、赤い飛沫で汚れた、白いカード。
ゲイシー精肉店
彼らは一様に、理由をこう述べた。
『ジャックが肉を欲しがっているから』
魔術の深淵が蘇らせた赤子はとうに人間ではなく、もっと醜悪な何かであり……瞬間。赤子は跳躍して天井へと張り付き、唾液まみれの汚れた牙を剥き出してうなると、彼ら目がけて餓えた獣のごとく飛びかかり。
由貴奈の工具が放たれ、楓のワイヤーが走り。サキリのナイフが暗闇へ、きらりと閃いて。
……か細い白煙が、砂煙の舞う空へとたなびき、昇っていきます。
紗矢香の提案で、彼らは赤ん坊を、火葬にして弔うことにしました。精肉店の奥で、手や足を失いぼろぼろになって死んでいる、４人の着ぐるみたちとともに。
灯台守の老人が花を手向け、黙祷するのに合わせて、炎を囲む彼らもまた頭を垂れ、祈りました。家族の平穏を。
焔も。春彦も。勇生も、サキリも、理紗子も。由貴奈も、梢も。楓も。もはや、言葉はありません。
ただひたすらに、そこには、祈りがありました。願いがありました。
露草は、このほうが気持ちが入るから、と線香を上げ、両手を合わせました。宗派の違いなど、ここにさしたる意味はありません。
（……どうか、安らかに）
白煙がすっかり空へと消えてしまうまで、彼らは黙したまま、祈り続けました。
＜『脱出！ 着ぐるみ包囲網２４時！』 終＞
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2016年07月23日
- 参加申し込みの期限
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- 2016年07月30日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2016年07月30日 11時00分
