ＭＦＳ！　～あるいは全ての表現者に捧ぐ、夜半過ぎのＴＶショウ｜リアクション

ＭＦＳ！　～あるいは全ての表現者に捧ぐ、夜半過ぎのＴＶショウ

　キャットロードの裏路地に佇む『黒川探偵事務所』には、一般の依頼客の目には触れない、秘密の隠し戸棚があります。
　深夜２時過ぎ。かたん、と開いた戸棚の一角へ、残業を終えた芽守健作は一冊のファイルを収めて、しばし、その背表紙をじっと見つめます。普段は隠されている棚の上部には、窓から差し込む明るい月の光に照らされて、『神魂絡みの事件』と書かれたプレートが浮かびあがって見えました。
　ファイルの背表紙にはぺたりと、赤いハンコで押された、丸で囲まれた『済』の文字。その下に記されているタイトルには、『ＭＦＳ！事件　調査報告書』とありました。
　あの膨大なメモ書きを推理した時、健作のろっこんによって導き出された一連の言葉を、彼は『新出府譲の残したかったもの』として、報告書にまとめました。そうして書き記したものが、いつか誰かの目に留まるのかは、分からないままに……ただ、そうしておきたかったのです。
　顔も名前も無い男が、この世に何を残すことができたのか。どんな形であれ、健作はそれを、書き残しておきたかったのです。まるでそれが、彼の担う責任であると自負するかのように。
「…………おや？」
　戸棚をもとどおりに隠したところで、健作の耳にどこからか、聞き覚えのあるような声が聞こえてきました。
　換気のために開け放しておいた窓の向こう、どこかの民家の窓際に置かれた古いラジオがかき鳴らす、いささか調子っぱずれの陽気なメロディ。質の良くないスピーカーがわめく、少しひび割れた男の声。
　健作は。眼鏡を押し上げ……目を細めて、うっすらと。笑みをこぼしました。
　こらえ切れずに口元へ、月影にとろけるような微笑みを。

「ハロー、ハロー！　もれいびの諸君、やあ、元気にやってるかい？
俺は元気さ、毎日が初デート前の大学生みたいに、わくわくしてるよ。

さて！　今夜も我らが寝子島の闇にうごめく異変、異形、フリーキー・オブジェクトの情報が目白押しだ。
もれいび諸君はお聞き逃しなく、ああ！　ひとの君が気合を入れたって、もちろん構いやしないぜ？
なるようになるものさ、何でも飛び込んでみりゃあ、案外ね。

それじゃあさっそく始めよう、怠惰な夜に退屈を持て余す全てのリスナーたちへ送る、
深夜のホットな怪奇情報番組！　ミッドナイト・フリーキー・クラブ！
のお時間だ……なあ、楽しもうじゃあないか？

何せ、夜は長いんだ。盛り上がるのはまだまだ、これからさ！」

＜『ミッドナイト・フリーキー・ショウ！』　おしまい。＞

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あとがき

担当マスター：墨谷幽
ファンレターはマスターページから！

　墨谷幽です。おまたせしました！　『ミッドナイト・フリーキー・ショウ！』最終夜のリアクションをお届けいたします。

　墨谷がらっかみ！で初めて出させていただいたシナリオは『ＭＦＳ！　～死亡申告書』で、それ以来２年半ほどかけて進めてきた一連のシリーズは、それなりに特別な意味のあるものであったように思います。
　そのためなのか、リアクションの執筆中もずっと、このシナリオのあとがきに何を書いたものかな……と考えていたのですけれど、今に至るまで上手い言葉が浮かばずにいます。今、ああ終わっちゃったなぁ。ぽかーん、としながらこれを書いています。
　ずっとそうしてぽかーんとしているわけにもいきませんもので、ひとまず、番組の各コーナーについてひと言ずつ述べてみたいと思います。

【１】死亡申告書
　申告書を配り歩く謎のサラリーマン、なんてイメージは以前からあったのですけれど、今回ようやく登場させることができました。
　再び皆さんの堂々たる死にっぷりを描けて楽しかったです。また、それを乗り越える様は痛快であれば良いな、と思います。

【２】モコヌ
　モコヌは可愛らしいものとして描きながら、どこか切なかったりひどい目にあったりするのが特徴です。
　黒崎先生への皆さんのアプローチの違いが興味深く面白かったです。愛されてますよね。

【３】コンテスト
　今さらながら『ユメギワ空想楽団』という名前は、１０年くらい前に解散してしまったとあるバンドの一曲からモチーフをいただいています。
　音楽、ダンス、パフォーマンスなどを文字で描写するのはいつも難しく、そしてやりがいがあり楽しいです。

【４】コロシアム
　華々しくギリギリの負けを喫するというのも美しいとは思いつつ、気付いたら全勝でした。
　それぞれに見応えある見せ場を作れたらと頑張ってみましたが、いかがでしたでしょうか。

【５】立入禁止
　こうして、ＰＣの皆さんのバックボーンを掘り下げさせていただくのはいつも緊張しながらも、どこか皆さんとの一体感を感じられるような気がして、好きです。私の片思いかもしれませんけれど。
　それぞれに抱える苦悩や絶望を乗り越えたり、理解を深めていく一助となりましたら幸いに思います。

【６】着ぐるみ
　墨谷がたまにやる、設定からプロットから皆さんのアクションに丸投げっというパターンでした。おかげで自分としても意外性のあるお話になり、楽しかったです。
　ちなみに、いろいろ出てきた名前は検索しないのが吉です。
　あと……豹と狐、すみません。素でした。

【７】ライブ
　あえて葛藤や対立を招くような構図を作りました。彼女への気遣いも、肝の冷えるアクションも、私には等しく嬉しいものでした。
　その結果がどう転ぼうと、粛々とそれを受け止めようと、最初から決めていました。

【８】パイレーツ
　最後はとにかくスケールの大きいことをしようと、ジョニーさんこと彼の元ネタにあやかってみました。
　希望者全員登場ということで、見せ場の連続で忙しくも楽しく、すいすいと筆が進みました。

　まだ、書くことに迷っています。
　ひとつだけはっきりとしているのは、これだけ長く続けられたのは、皆さんが興味を持ってくださり、参加し続けてくださったからに他ならないということです。秘子ちゃんや彼へ、私の想像以上に深くお気遣いを寄せていただいたのは、お話を進めていく上で、本当に嬉しくてありがたいことでした。そうでなければ、きっとこのお話の根底に据えたテーマは、まったく違うベクトルへ変わっていたように思います。何かスゴイ巨大な化け物が出てきてそれを退治しないと世界が滅ぶ、みたいなお話に。

　そうそう。今回の結果を受けて、胡乱路秘子はこれからフツウの一寝子高生として、皆さんと一緒に学校へ通うことになるかと思います。
　どこかでお見かけした際は、よろしければ声をかけてあげてくださいね。きっと彼女は変わらず、んふふっと笑みを返すでしょう。

　『ミッドナイト・フリーキー・ショウ！』は、これにておしまいです。
　長らくお付き合いをいただきまして、皆さま本当に、本当に……ありがとうございました！！

※シナリオ完結の記念に、アイテム『モコヌぬいぐるみ』（全５種類）を、ランダムでプレゼントさせていただきました。
プレゼントの受け取りは、こちらからどうぞ。
　https://rakkami.com/item/transfer/get
なお、プレゼントのお知らせメールは送られておりません。
また、胡乱路秘子からのメッセージは、アイテム受け取り後に消えますので、あらかじめご了承くださいませ。

　今後のことはまだ分かりませんけれど、何かまた、新しいことを始められたらいいな、と思っています。
　ただ今は、すべてやり切って頭が真っ白で、どうにも、ぽかーん、としたままなのです。

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