心の中の曲が聴こえる｜リアクション

心の中の曲が聴こえる

　御剣刀は凛とした姿で立っていた。武道の立ち会いにも似た鋭い眼光を手元の本に注ぐ。背表紙には『寝子島の人々の営み』と色褪せた黒文字で記されていた。
　刀が北校舎の図書室に訪れて一時間が経過しようとしている。
「……これもダメか」
　書架に本を戻して別の一冊を引っ張り出す。刀は目次を素読みして第三章から読み始めた。
　図書室は静けさの中にあった。頁を捲る度に乾いた音がする。刀は無言で紙との対話を続けた。
　勢いよく本は閉じられた。
「やはり噂の域を出ないのか」
　刀は図書室を出た。廊下を滑るように歩く。遅れを取り戻すかのように速度を上げていった。

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