天使と悪魔のロマネスク｜リアクション

天使と悪魔のロマネスク

浮遊岩群『天上の滝』（５）

　轟改め、『ザ・ストレイト／フェザー』！　巣の真正面に羽ばたき、陣取った彼の守りは堅牢だ。
「はッ！」
　しゅぱん、と小気味良い音。
　多少なり飛ぶのに慣れてきたとはいえ、機動力でカラスたちに敵わないことは当然、承知の上。轟は巣を塞ぐようにして背負い、突破しようと飛来するカラスを、神速のジャブで迎撃！
「どれだけ速かろうが、数打ちゃ当たる！　これ以上、フェニックスを傷つけさせはしねえぞ！！」
　疾る左手が、しゅぱん、しゅぱぱぱぱ！
　彼を中心に、仲間たちも周囲へ展開し、場は防衛戦の様相を呈しつつあった。

　そんな激闘とは少しばかり、離れたあたりにて。
「うわーお、俺マジに飛んでる！　楽しいー！」
「すごい景色……！　こんなの、地球上のどこにも無いよ！」
　三谷賢二、篠原翠響はのんびりと、観光中。浮かぶ岩々の雄大な風景を見上げ、涼しげな滝の裏側をすいすいと通り抜け、思い切り翼を打ってひとっ飛び。何たる爽快感！
「いやー、きっと俺の前世って鳥だったんじゃね？　もう自由自在に飛べちゃうぜっ」
　と言って笑う賢二や、心地良い向かい風に目を細めた翠響もまた、翼を得て間もないため、まだまだ飛ぶのはおぼつかないところがありつつも、少なくとも気分はまさしく、鳥のごとしだ。
　といった具合で、天界の空を堪能していたら、
「……ん？　何だ、あれ？」
「カラスの群れ……？　こ、こっちに来る！？」
　カラスたちには人の見分けなど付かないのか、見境なしなのか、ともかく賢二と翠響もまた彼らの標的となってしまったらしい……ずばばばば！　瞬く間に、カラスはふたりを取り囲む。
「きゃあっ……！？」
　迫りくるカラスのくちばしはやけに鋭利に見えて、翠響が思わず顔を伏せた……その、瞬間に。
　ＢＯＯＯＯＯＭ！！
「……ふっ」
　翠響が再び顔を上げると、目の前には、
「大丈夫さ、問題ないぜ」
「いや、全然大丈夫じゃないよね！？」
　サムズアップした賢二、彼の自慢のサラサラストレートは今や、まさしく鳥の巣のごとき、見事なアフロ！！
「ま、きっとこれ、夢みたいなもんだし。起きたらきっと、元のサラストに戻ってるだろー！　それよりこのままだと、ちょっとまずくね？」
「そうね、こんなにたくさんのカラスについばまれるのは……、ッ！！」
　鋭く飛翔するカラス、狙い澄ました一撃を翠響が避けることができたのは、無意識に発動条件を満たした、彼女のろっこんによるものだった。が、彼女は気付いてはいない。何だか身が軽く、まるで吹き抜ける風のように、軽やかな動きが身についている……翼を得たせいだろうか？　無自覚な翠響の認識は、その程度ではあった。
　とはいえ今は、それで十分だ。
「！　誰か襲われてるみたいだ、加勢しようぜ！」
「ええ！　今ならあたしも……やれるはず！」
　翠響はくるり、ぎゅるんときりもみ回転！　群れを突っ切りながら、手にした小石を投擲して数羽を撃墜。アフロ賢二はトップスピードで飛翔し、カラスの編隊をか大きくき乱していく。