＜寝子温泉よりSOS＞温泉が出なくなりました……｜リアクション

＜寝子温泉よりSOS＞温泉が出なくなりました……

　寝子温泉から少し山上へ登ったところ。崖が多く道なき道の険しいこの付近は、登山道には指定されておらず、一般人が進入することはまずない。この一角に、焦点となっている冷却装置は建てられている。
　冷却装置は、寝子温泉街で営む人々にとっては生命線。ここが動かなければ湯が出ないばかりか、温泉目当ての行楽客もゼロとなってしまう。
　迅速な事態解決が望まれた。

　冷却装置に向かう8人は開けた草地で一時休憩タイム。
「今日中の、できれば午前中の解決は必須なのだーモグモグ」
　朝ご飯用に持って来たおむすびをモグモグしながら後木真央。
「じゃないとニュースとかになって皆に知れ渡ってモグモグ寝子温泉は寒〜いモグモグ年末年始を送ることになってしまうのだー」
「食べるか話すかどちらかにしろって」
　と言いつつ御剣刀も、おすそわけしてもらったおむすびを頬張る。
「お、鮭か」

　冷却装置方面を見ながら八神修と椿美咲紀は作戦を練っている。
　少し高台にいるおかげで、装置の一部を見下ろすことができる。ただ到達するには崖を下らなければならず、やや遠回りする必要はありそうだ。
「なんであんなやっかいなところにあるのですか！？」
　調査隊の人たちがもしかしたら落ちてるかも。崖の下を覗きながら美咲紀。
「一般人が安易にたどり着けないように配慮しているんだろう。いたずらする輩もいるだろうしな」
　そう推測しながら八神修は高性能デジカメの望遠レンズで周辺をくまなく観察する。
「何か見えます？」
「いや、静かなものだ」
「急いだほうがいいんじゃないか」
　木に背をあずけていた如月庚が輪の中央に立った。
「冷却装置の確認は別として、調査隊は早めに見つけたほうがいいだろ。腹空かせて凍えてるかもしれんし」
「そうなのだー早くお茶を届けてあげたほうがいいのだ」
　喉に詰まりかけたおむすびを流し込み、お茶入り水筒をしまう真央。
「とはいえ事前に相手の戦力を測っておく必要もあるな。何匹いるのか、装置周辺でなくこの辺りにまでテリトリーを延ばしているのか……探索と観察、分かれるのがいいかもな」
「なら俺は探索に行くかな」
　庚が言うと、
「私も行くのです！　調査隊の人たちが怪我していたら役に立てます！」
　美咲紀も立候補。
「真央ちゃんも行くのだー」
「んじゃ俺も。体動かして温めたいし」
　真央、刀も続く。

「その前にーちょっとご報告ですー」
　草むらから姿を現したのは屋敷野梢。
「なんだ屋敷野、トイレにでも行ってたのか」
「如月君違いますよ！　少々付近の生態調査を」
　言いながらビニール袋を差し出す。
「なんだそれ？」
　中には黒い塊が見える。
「動物の糞でーす」
「うげ」
　身を引く庚をよそに梢は説明を始める。
「木の実といった自然物と一緒に煎餅の欠片や飴玉が入っていましたー。恐らくは調査隊から奪ったものでしょう」
「ふむ」
「そして極めつけはここ」
　ビニールの中を指す。
「糞の主の毛です。この質感からしてサルの可能性が高いですねー」
「なるほどーやっぱり動物の仕業なんだね！」
　白真白が少しホッとする。幽霊や山賊が出てくるよりはだいぶマシだ。
「神魂の影響を受けて凶暴になった猿、と考えたほうがよさそうだな」
　冷却装置の様子を見ながら修が分析する。
「それが分かっただけでも大収穫だな。十分な対策を立てられる」
「大天使さんが見つけてくれましたー」
　梢の後方にいた大天使天吏、ニコリと笑む。
「お役に立ててよかったわ」

　冷却装置の異常を作ったのは猿と結論づけた一行は、いよいよ隊を分けて行動に出る。
　刀と天吏と真央がA隊。梢と庚と美咲紀がB隊。それぞれ別方向から装置周辺を探索。残る修と白は拠点としてしばらくこの場に残り様子を探る。
「まずは調査隊を見つけ出すことだな」
　刀が言うと、真央が気合を入れる。
「絶対見つけて温泉に入るのだー」

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