＜寝子温泉よりSOS＞温泉が出なくなりました……｜リアクション

＜寝子温泉よりSOS＞温泉が出なくなりました……

「温泉が出なくなったか……ちょいと気になるな」
　アルバイトでやって来た如月庚も山林方面を気にかける。
「穏やかじゃないですねー」
　スマホをいじりながら屋敷野梢。
「ねこったーでもつぶやかれてますねー。獣の鳴き声が夜な夜なあるとかないとか。群れをなす動物でしょーか？」
「てことは屋敷野、ミス研よりは生物部の土俵だな」
「そうですねー。クマが徒党を組んで……あるいは、サルかイノシシの線が濃そうですね」
「クマだとこの時期のは腹空かしてて凶暴そうだな。猿は悪知恵働きそうだし、イノシシはパワーありそうだし。どれにしてもやっかいだ」
「神魂の影響も考慮に入れないといけませんしねー」
「なら俺たちのとるべき行動は決まったな」
　庚、肩を回しほぐしながら、温泉街に背を向ける。
「音信不通の調査隊、獣に食べられてないといーですが」
「冷静にエグいこと言うなよ生物部部長」
「至極まっとうな自然の摂理ですよ」
　庚と梢、冷却装置組に参加決定。

（ふーん）
　集団を遠巻きに傍観していた大天使天吏も動き始める。
　人間観察の一環として参加したアルバイト。事態は予測していた以上にやっかいなようだった。
（温泉に来る人たちの相手をして人間らしさを探るのも趣があったけど）
　冷却装置方面を調べに行く彼らの行動原理を観察するのも面白そうだ。
（もし機械の故障などではなく、生き物たちが理由なのだとしたら）
　自然を開拓して造り上げた末の被害。皮肉なものである。
（どんな風に解決させるのか、見物ね）
　かすかに口角を上げる。彼女もまた、山林へと入っていった。

　まばらとなった温泉街。朝はまだ早く寒い。
　団体の到着までには余裕があった。
「冷却装置の様子を見に行く人たちが思いのほか多かったなー」
　にゃーくんを撫でながら円。
　結局残った営業組は、円、時子、そして買い出しへ出た夏朝と有留。
「でもこれで冷却装置の復旧可能性はグンと上がったかと……」
「うんうん、刀くんだたちならやってくれるでしょう」
　さて、いっちょやりますか。と、腰を上げた直後。

「えーっ！　温泉でないんですかぁ！」

　静けさを破る真境名アリサの驚嘆。
（とほほ、年の瀬になんてツイてないんだ）
　貴重な休みを利用しての日帰り温泉。湯にゆったりと入れるのは当然として、おいしいものは何があるかしら、とガイドマップ片手にウキウキ気分で朝早く到着したというのに。
　観光協会から事情を聞き、その場に崩れそうになる。
「そうなんです、というわけでよろしくお願いします」
「よろしくと言われても……」
　謝られるならまだしも、何かを頼まれたような口ぶりだ。
「無事に温泉が再開通しましたら入り放題、風呂上がりの牛乳や温泉饅頭その他名物料理を振る舞いますので。」
「え、ええ！？」
　今度は喜びの驚嘆だ。
「タダで！？」
「もちろんです。ていうかバイト代出しますし。どうかお客様のお相手、よろしくお願いします」
（なんかバイトと間違えられてるみたいだけど……無事に済めば温泉入れるみたいだしお駄賃ももらえるみたいだし。ある意味ツイてるかも！）
　やや解せない気持ちも抱きながら、営業組に参加するアリサだった。

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