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黄昏への訪問者たち
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赤い空に喚声が響いている。
瞬いた亜麻色の瞳に暮れなずむ空の茜色を写しとって、
木鈴 寧々子
はもう一度瞼を閉ざす。閉ざして、開く。
眼前に広がる、夕暮れの草原を眺める。
夕風吹く草原に蠢き好き勝手に暴れて回る、人のかたちせぬ者たちを身動ぎもせず見つめていて、不意に腕を掴まれた。
「危ないで、退いとき」
「わ、」
腕を引かれるまま、子猫のような身軽さで後ろに退いて、今の今まで居た位置を轟音たてて駆けて行く炎纏う車輪を見た。輪の中に男の顔持つ物の怪の血走った眼にぎろりと睨まれて、けれど寧々子は怖じもせずただ目を丸くする。
緋色に染まる草原に炎の轍を刻んで、輪入道が物の怪たちの群に突っ込む。
「ああもう、あないに燃してからに」
寧々子の傍らに立った翁面を掛けた男が情けない声で呻く。手にした背丈ほどの長い棒で草の上を這う炎を払う。それだけで、炎熱あげて燃え盛っていた炎は不思議と鎮まった。
「ほな、頼みます」
翁面の男に手を合わせられ、全身青緑色した生き物がのっそりと現れる。人のかたちにない嘴をカツカツと打ち合わせ、頭上を覆う白い皿を一撫ですれば、年老いた河童の周囲の地面から水柱が立った。
「わ!」
「姉ちゃんも迷うた口やな」
恐いないか、と寧々子の顔を覗き込んだ翁面の奥のやる気のなさそうな男の眼がちらり、瞠る。
「なにここ!? すごい!」
怪異を前に怯えるかと思われた女の瞳は、好奇心に満ちて輝いていた。
「ねぇねぇ、見てっていい?」
へたりこむようであれば支えようと掴んでいた腕を逆に掴み返され、心底楽しげに問われ、男は戸惑う。
「そらまあ、ええけど」
河童の爺の操る水柱が、はしゃぐあまり草原を燃やし尽くそうとしていた炎の物の怪たちに襲い掛かる。鉄砲水に押し流され、身に纏う炎をじゅうと消され、輪入道が雄叫びをあげる。河童の爺対火焔妖怪たちの睨み合いが始まる。
「こっち来ィ」
炎と水がぶつかり合い、熱孕む水蒸気が立ち込めるその場から寧々子を引き離し、翁面の男は足早に草原の一角に設けられた天幕へと向かう。
「えー」
「危ないて」
不貞腐れる寧々子に構わず、翁面の男は通りがかりの割烹着の女を呼び止める。三角巾で半ば隠れた後頭部に開く大きな口を見つけ、寧々子は栗色の瞳を楽しげに輝かせた。
女妖と一言二言話し、男は寧々子にひらひらと手を振る。
「私見て回りたかったのにぃ」
「あないなとこ居ったらとばっちりで火傷するわ」
忙しげに天幕から出て行く翁面の男と擦れ違い、
音羽 紫鶴
は黒い睫毛の影落ちる薄墨色の瞳をもたげる。面に隠れた男の横顔を横目に捕らえ、男の視線が見据える水妖対火妖の一触即発な場面も捕らえる。
男はあれを納めに向かわなくてはならないらしい。
「頑張ってね」
見るからに荒事な場面に関わる気になれず、平坦な声で告げる紫鶴に、男は仕方なさそうに肩を竦めて見せた。
「翁面って事はお仕事かぁー」
「おう、ようお越し」
天幕の出入り口に顔を覗かせていた夏草色の髪の少女と手を振り合い、翁面の男は戦模様の草原へと足を向ける。
「ふーん」
拳と拳で語り合う西洋と東洋の妖たちを緋色の瞳で見晴るかし、
桜庭 円
は華奢な肩にしがみつく茶虎猫の胴を片手で支え直す。瞬きのうちにこの街に飛ばされてしまうことにも、随分と慣れた。
(西洋と東洋で縄張り争いをしてた、かぁ)
大騒動な草原に迷ううちに見聞きした情報が頭を過る。
(ごちゃまぜで面白いなぁ)
愛猫のにゃーくんの頭を撫でつつ、円は瞳を細める。
時折迷い込む、妖だらけの奇妙で面白い黄昏の世界。記憶をやり取りしたり、鬼に奪われたりもする、時に怖い世界。
思い出すのは、お三夜祭りに翁面の男と交わした言葉。
――もし、今度あっちの街に関わる事が有るなら、
彼が会いたいと願う人に会えるように、その人を探してみる。そう、確かに言葉にした。
(お兄さんは乗り気ではなかったけど)
でも、言葉に出してしまった以上は努力したかった。
(それにしても、)
――セカイになってもた
あの夜の男の言葉を思い起こし、円は首を捻る。あれはどういう意味だろう。
例えば、何かに溶け込んだ?
(そんなイメージの言葉な気はするけど)
なんにせよ、と円は明るく澄んだ瞳をもたげて夕暮れ空を仰ぐ。会える可能性は無くは無い。そう思っておこう。
(希望は大事)
もうひとつ、気になることも言っていた。言おうとしていた。
(言いかけた事、何だったんだろう)
会いたい人に会えないその制約か、それとも、
(それとも……)
妖たちが日々を面白おかしく暮らす世界の裏側に、この世界で関わった男が抱える事情に思いを巡らせる少女を横目に、翁面の男を見送った紫鶴は周囲を照らす黄昏の光に瞳を細める。
(……今回は何をしようか)
くすり、十四の少年らしからぬ大人びた笑みの欠片を唇の端に刷く。
優しく寂しい茜空の下、寂しさを吹き飛ばそうと足掻くかのように明るく騒ぎ立てる物の怪たちが棲む世界と関わるのはこれで何度目だろう。
(嬉しいな)
静かな笑み湛えた瞳を巡らせる。見たところ、白い天幕の建ち並び、筵に横たわる怪我人たちが揃うここは救護所と言ったところだろうか。視線を流せば、長椅子や卓の並ぶ食事処さえ準備されている。
天幕の外で大歓声が沸き起こる。ずしん、とナニカが地響きたてて倒れる音がする。ここから程近い何処かで観衆を騒がせる出来事が起こったか。
(何か他に面白い事はあるかな?)
次々に起こる騒ぎを心底面白がりつつ、紫鶴は次に起こる何かを期待して視線を巡らせる。
「怪我しない様に気を付けて下さいね!」
お三夜祭りの夜、寝子島に迷い込んだ此方側の住人たちを助けた際に見かけた黒髪の少女、
宮祀 智瑜
が翁面の男の和装の袖を掴んで心配げに言っているのを見、紫鶴はまた少し微笑む。
「そうは言うても、……あっち終わったらそっちも見なあかんし」
ほれ、と男が顎で示すは、火焔妖怪対河童とは違う方向、ダイダラボッチの子供とドラゴンの子供が額をぶつけて睨みあう現場。
「……えーと、すみませーん」
聞いたことのある少女と翁面の男の声に惹かれてうっかり目線を向けた途端に見てしまった怪獣大決戦からそっと目を逸らし、
猫島 寝太郎
はおっとりとした声音で食事処の給仕に駆け回る小僧を呼び止める。注文するのは熱いお茶。気持ちを落ち着けるためにはこれが一番。
救護所と食事処を一歩離れてしまえば、周囲は怒涛の喧嘩祭りの真っ只中。ここは食事処に腰据えてしまうのが安全というものだろう。
翁面の男と少女の会話を流し聞きつつ、寝太郎は一際騒がしい歓声の上がるナニカの群へと再び視線を向ける。
ドラゴンの尻尾に足を取られたダイダラボッチが膝をついたらしい。勝っただの負けただのの声があがり、ダイダラボッチが雄叫び上げて立ち上がれば、『タイマン』だの『ステゴロ』だの、謎の掛け声が方々から巻き起こる。
「ステゴロって何だろ?」
届いたお茶を受け取り呟く寝太郎の声を掻き消して響く、
「「サイッキョー!!」」
の大合唱。それに続いて、低く渋響き渡る、掛け札撒く一反木綿の渋い声。
先だって、首に巻き付いてきた布の正体と同じ声をこんなところで耳にして、寝太郎は思わずお茶に噎せた。
「大丈夫なのです?」
いつのまにか寝太郎の傍らにちょこんと座っていた波打つ銀髪の少女が、空の茜を映して銀色に煌く大きな瞳を心配そうに瞬かせ、寝太郎を覗き込む。
「えっ、あっ、大丈夫だよー」
「ちなみにステゴロは素手の喧嘩の意味なのですー」
「そ、そうなの?」
銀の髪に銀の瞳、瞳を縁取る長い睫毛も銀色、纏った白のワンピースには一点の汚れもない純白。突然現れたようにも、ずっと前からそこに居たようにも思える少女が、寝子島の住人ともこちら側の住人とも判別つかず、寝太郎は目を白黒させる。
「うんとね、ゼロにはひとだまのてんぷらをくださいなのですー」
寝太郎ににこりと笑みかけ、
ゼロ・シーアールシー
は給仕の小僧に物怖じ一つせずに注文する。
「あとひとだまの甘露煮もお願いするのですー」
恐れ気もなく恐ろしげな食べ物を注文するということは、可愛らしい少女の姿をしているものの、矢張りこちら側の住人、お化けなのだろうか。
(お三夜祭りで見たことある気もするけれど……)
ステゴロな拳闘場で一儲けしてきた後なのか、見慣れぬお札の束を景気よく給仕の小僧に手渡し、遠くに響く大狸楽団の演奏に楽し気に耳傾けるゼロの様子を伺いながら、寝太郎は髪と同じ薄墨色の眉をほんの少し寄せた。
「こんにちはなのです」
純白のワンピースから伸びた白い脛をご機嫌にゆらゆら揺らし、波打つ長い銀の髪に茜の風を泳がせて、少女は隣の席で酒の盃傾ける一つ目の老翁に人懐っこく話しかける。
「ゼロはゼロなのですー」
「おう、そうかそうか、楽しんど……お、おお! そこだ、押し込めー!」
好々爺らしく何度も頷いた次には、老翁は酒瓶振りかざして向こうの原で執り行われている模擬妖怪大戦争に向け大音声の声援を送る。
「どちらを応援しているのです?」
「東洋。しかし西洋妖怪の副将のさきゅばすが可愛くてな」
「今年は西洋妖怪と東洋妖怪のどちらが勝ちそうなのですー?」
「予想では西洋が優勢なんじゃが、今は東洋が優勢に見えるか」
給仕の小僧が届けた蒼白く輝くひとだまのてんぷらとひとだまの甘露煮の皿を間に挟み、ゼロと一つ目の爺は旧知の友人のように談笑する。
見るからに妖怪な一つ目の爺と一見少女に見えるゼロとが仲良く言葉を交わし、盃とお茶の椀で乾杯し、ついには給仕の小僧を巻き込んでどんちゃん騒ぎを始めるのを、寝太郎はお茶をすすりながら眺める。
あちらでステゴロこちらで模擬戦闘、尋常でなく荒っぽくはあるけれど、人の姿にあらぬ彼らは皆、どこかしらうきうきと楽しそうだ。
この大騒ぎは間違いなくお祭りなのだと理解した途端、おっとりしつつもお祭り好きな少年は普段眠たそうな瞳を愉快そうに細めた。笑んだままの瞳を周囲に巡らせれば、先のお三夜祭りで見かけた顔もところどころに見受けられる。拳闘場の空を飛ぶ一反木綿然り、食事処の隣の救護所を忙しげに駆け回る巫女姿の少女然り。
お三夜祭りのあの日、三夜湖に見かけた面掛けた男は、今また女子に捕まっているらしい。
「まあ、仕事やし。しゃあないわ」
「お仕事でもです」
肩を落とす翁面の男の袖を離さぬまま、智瑜は語気を強める。幾度となく邂逅を果たしている面の男に再び相見えたことは嬉しかったけれど、どう見ても今から戦いに向かう彼が心配でならなかった。だって今まで、この人が戦っている姿を見たことがない。
「日暮さん」
「おおきに」
黒髪の少女に大きな黒い瞳で怖じもせずに見上げられ、日暮と呼ばれた翁面の男は面の奥で僅かに笑んだ。ひらりと手を振り、袖掴む智瑜の指から逃れる。火の妖怪たちに一人で立ち向かう河童の爺を手助けするべく駆けだす。
日暮はあまりやる気のなさそうな感じではあったけれど、他の皆は真剣ではあるものの何だか楽しそうな感じでもある。広大な草原に溢れるのは、殺伐とした空気ではなく、技や力をぶつけあうような熱い雰囲気。
(スポーツみたいな感じかも)
とはいえ、炎操る妖怪たちを棒切れ一本で相手にするのだろうかと不安に思いながら、智瑜は怪我人に溢れる救護所を見渡す。ここに居れば、日暮の様子を見守ることが出来る。万が一彼が怪我をして戻ってくれば介抱することもきっと出来る。
筵に転がった怪我人が呻く。割烹着に三角巾姿の妙齢の女が優しく声かけ手当てをし始める。
絡新婦が千切れた腕をぶらさげてめそめそ泣く一本ダタラの頭を景気よくはたく。手慣れた仕種で何処からか針と糸を取り出し、手早く腕を体に縫い付ける。智瑜が呆然と見つめるうち、とれた腕はものの見事に元通り。張り切って再び戦場に飛び出そうとする一本ダタラを、おかっぱ頭の黒髪の少女が必死な様子で引き止め叱る。
「カンナちゃん!」
血気はやる妖怪を諌めて筵に横たえることに成功し、一息つく小さな少女の元、智瑜は駆け寄る。
「智瑜」
いつもの巫女服の上に大きめの割烹着を被った、日暮たちには『神木の巫女』と呼ばれる少女の前に膝をつき、智瑜はカンナの頭を撫でる。ご近所の小さな子どもたちが祖父母の営む青果店におつかいにやってきたときにするのと同じように、ぎゅっと抱きしめる。
「お手伝いしてるなんて偉いですね」
神木の巫女は、ほんの僅かな逡巡の後、どこか照れたようなくすぐったいような声で笑った。
「おや、友達かえ」
着物に割烹着姿が逆に妙に艶めかしい絡新婦があだっぽく微笑みかける。
「どうにも人手が足りなくてねェ。ちょいと助けてくれないかい」
「あっ、はい!」
ひらひらと手招きする絡新婦の女医に応じ、智瑜は元気よく返事をする。
「でも、もしかして人と手当ての方法が違ったりしませんか」
「教えてあげる」
カンナに手を引かれる智瑜を満足そうに見やってから、救護所を預かる絡新婦は新たな人手を探してぐるりを見回す。
「ちょいと」
食事処の端の席でお茶を干す寝太郎少年を見つけ、絡新婦は蛾の触覚じみて長い睫に縁どられた眼を細めた。獲物を定め、寝太郎に近づく。
「男手が欲しいんだよ、助けておくれ」
「えっ、自分?」
「だめかい?」
うーん、と考えこむのんびり屋そうな少年の腕を有無を言わさず掴んで立たせ、絡新婦は圧倒的な肢体で迫る。
(一応保険委員だし応急処置くらいはできるかなぁ)
考え込みつつ、寝太郎は割烹着の白い布を持ち上げる胸の大きさにどぎまぎする。煽情的なスタイルに赤面して視線泳がせて、自分を見遣るカンナと眼が合った。
(いや、けしてやましい気持ちとかっ!)
心を見透かすような透徹した少女の視線に動揺して、寝太郎は慌てる。救護所によろめき入ってくる妖に肩を貸そうと逃げるように駆け出す。
「だっ、大丈夫?」
石の肌した妖に肩を貸した途端、見かけよりもずしりと肩にかかる重さに潰されそうになった。
「わ、わわ」
「手伝うよ」
石の妖と一瞬に倒れそうになったところを、黒髪の少年が反対側を支えて助けてくれた。
「ありがとう」
「構わないよ」
寝太郎より一つ二つ年下らしい少年は、薄墨の瞳をどこか隙の無い笑みに細めた。線の細さに反した体幹の強さを見せ、揺るがぬ足取りで妖の身を空いた筵に横たえる。
「ちょいと」
「あっ、はーい」
絡新婦の要請を受けて忙し気に立ち上がる寝太郎に、ここは任せてと軽く手を振り、紫鶴は周囲に視線を走らせる。
「やぁ、君はこんな所に居たんだね」
場慣れした態度で、ぶかぶかの割烹着の裾から覗く二又三毛尻尾を揺らして歩いていた猫又を呼び止め、妖の治療方法を問う。先のお三夜祭りで世話になった少年に、猫又はいそいそと背に結わえ付けた救急箱を示してみせた。
「救護班をしているんだね」
「手伝ってくれるの?」
向こうの世界では耳に出来なかった猫又の案外幼い声音を聞いて、紫鶴は軽く頷く。傷を癒す力なんて便利なものは持っていないけれど、手伝うくらいならばできる。
猫背から救急箱を下ろして、当の猫又がにゃあ、と弾んだ声で鳴いた。その声に応える幼い猫の声を聞いて、紫鶴は石妖のひび割れた傷に不思議な匂いのする軟膏を塗りつける手を止める。
視線あげて見たのは、三毛の猫又と鼻先合わせて挨拶交わす茶虎猫と、
「おはようございます」
ぺこり、頭を下げる夏草のように鮮やかな緑の髪した少女。
「この前はどうも!」
智瑜の手を引いて通りがかった神木の巫女に物怖じしない明朗さで挨拶して、
「お手伝いするよー」
円は紫鶴の傍らに膝をつく。猫又の指示を受けて、紫鶴が軟膏を塗った後に包帯を巻きつける。
「カンナちゃん、ちょいと」
人手を駆り出しに出かけていた絡新婦が渋い顔の寧々子の手を引いてくる。
「助けてくれるようお願いしておくれ」
絡新婦と智瑜に手を引かれておかっぱ頭を下げる座敷童じみた容姿の少女に、喧嘩祭りを見て回りたいばかりに不貞腐れていた寧々子は一転、瞳を輝かせた。
「やだ、可愛い!」
「後で食事処で馳走したげるからさ」
絡新婦の提案が最後のひと押し。
「あ、ちなみに人間でも食べれるのをお願いね?」
腕まくりをしつつ、寧々子は張り切って皆の手伝いに精を出す。
「大丈夫、すぐ良くなりますから」
智瑜は痛みに呻く妖怪に声かけて、優しく包帯を巻く。いつも持っている裁縫セットを取り出し、裂けた着物の袖を縫う。
「包帯足りてるー?」
円が籠に山盛りの包帯を智瑜や寧々子に配って歩く。かと思えば救護所までたどり着いたところで力尽きて倒れた妖怪を寝太郎と力を合わせて絡新婦のところまで運ぶ。
「おぉおおれを先に診てくれぇええ」
「わしの方が重傷だぁああ」
それでなくても次々と怪我人が運び込まれてくる救護所で、祭りの熱気にあてられて気の立った物の怪たちが騒ぎ立てる。
「ちょっと! 怪我してるのは皆一緒なんだから!」
騒々しい物の怪たちを天幕の入り口に押しとどめて叱りつける寧々子の腰に、赤い顔した小豆とぎと蒼白い顔した舟幽霊が縋り付く。
「えっとね、仲良くしましょうなのですー」
どこからか現れてのんびりまったりと仲裁に入るゼロを押しのけ、
「介抱してくれー」
「柄杓くれー」
「おれが先に」
「わしを先に」
妖怪たちは騒ぎ立てる。
「……」
可愛い少女を無碍に扱う妖怪達を見据え、寧々子の目が険を帯びる。
柔和な顔つきはそのまま、寧々子は縋り付く酔っ払いと舟幽霊の首根っこを片手ずつに掴んだ。無言でそれぞれ別の筵に蹴り飛ばして寝かせれば、その妙技に猫又とカンナとゼロが愉快そうに拍手を送る。
「おお、やるか!」
「わしもやるぞ!」
血気逸る怪我人に詰め寄られて溜息を吐く寧々子の前、
「ここは治療の場なのにな」
紫鶴が困ったように呟いて立つ。
「……女性に喧嘩はさせられないからね」
治療の順を争っていたのはどこへやら、揃って殴りかかってくる妖ふたりのうちの一人を片手で軽く払いのけるようにして転ばせ、もう一人の勢いを舞にも似た動きで受け流す。相手の力を殺さず利用して、呆気なく地面に引き倒す。
「筵の上というわけには行かなかったね」
他愛ない不満を零してから、地面に倒れて呻く妖の顔に笑顔を見せ、
「ここは治療の場だからね」
繰り返す紫鶴の背後には怖い顔で腕組みをする、絡新婦を始めとする割烹着姿の女妖たち。
時を見計らったかのように、草原のどこかで大歓声が上がった。
「あとで女の人達が怖いよ?」
女妖達に睨まれて大人しくなる猛々しい妖達を眺めて、紫鶴は様子を見に来た猫又に淡く笑いかける。そろそろ別の場所も覗きに行ってみようか。
「また遊ぼうね」
猫又に手を振り救護所から出る少年の影に隠れ、ついでにこっそり抜け出そうとした寧々子は、
「逃がさないよ」
絡新婦の命受けたろくろ首に胴体をぎゅっと締め上げられた。長い首伸ばしたろくろ首に恨みがましく見つめられ、
「オーケー、わかった」
寧々子は眼を逸らしながら軽く両手を挙げて降参のポーズをとる。
「わかったから!」
ろくろ首に解放されて一息吐く寧々子の脇、女妖達に急かされる格好で寝太郎が通り過ぎる。向かうは先ほど大歓声のあがった拳闘場。あの声が聞こえたときは即ち怪我人が出たときなのだと、寝太郎の背を押す女妖が言う。
物の怪だらけの紅の草原を急かされながら、寝太郎はいつまでも変わらぬ茜の空を見遣る。紅く赤く、朱に暮れ続ける空を何と呼んだだろう。
日暮れ時、夕暮れ時、黄昏時、
(他になんだかこの時間にぴったりの言葉があったような?)
人と妖しの境が曖昧ではっきりしないように、
「誰そ彼は」
そう囁いて思わず目を細める。
今の今、正にそんな光景の真っただ中に立って、寝太郎は優しい瞳に力を籠める。
草原を駆けずり回る翁面の男と擦れ違ったその瞬間、男が掛けた翁面の下から、何か現れたような気がしたけれど、振り返った寝太郎がどれだけ目を凝らしても、黄昏の光に見えたのは、一見ひとのようにも見える男の背だけ。
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日常
SF・ファンタジー
定員
15人
参加キャラクター数
15人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2015年12月29日
参加申し込みの期限
2016年01月05日 11時00分
アクション投稿の期限
2016年01月05日 11時00分
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