ミッドナイト・フリーキー・ショウ！　～ユメギワ空想楽団｜リアクション

ミッドナイト・フリーキー・ショウ！　～ユメギワ空想楽団

【名探偵コズエの事件簿】

「任せてください！　必ず、お宅のワンちゃんを見つけてみせますからねー！」
　自信たっぷり。屋敷野梢はとんと胸を叩いて、顔見知りの奥さんへぱっちりウィンク☆ミ
　聞けば何でも、このお宅で飼っているワンちゃんが、外出した隙にどこかへいなくなってしまったのだと言うのです。奥さんが帰宅すると、後に残されていたのは、リードに繋がれた首輪だけ……もちろん、犬が自ら外せるわけもありません。
　不意に出会った、ミステリーな予感。さっそく活動を始める、梢の灰色の脳細胞……にわかに気合が入りまくるその理由は、耳に届くこのＢＧＭが、彼女を名探偵へと変身させていたからです。
「誰かのイタズラ？　いいえ。これは紛れもない、事件ですッ！」
　ばばん！

♪『名探偵コニャン　推理のテーマ』

演奏　ユメギワ空想楽団

　かくして梢は、推理開始！　すぐ後ろを、アルト・サックスやら何やら、楽器を携えた白いスーツの楽団員たちがぞろぞろと付き従っておりますけれど、そんなことには構わず。彼女はさっそく、奥さんに聞き込みを始めました。
「最後にワンちゃんを見かけたのは、いつごろでしたか？　ふむふむ、午後３時……夕飯の買い物のために外出し、３時３０分ごろに帰宅した際には、既に首輪のみが残されていた、ということですね」
　梢は口元に指を当て、ふむっとひとり思考を巡らせながら、家の前を行ったり来たり。推理モノにピッタリなＢＧＭを演奏する楽団員たちも、合わせて行ったり来たり。彼らは大人数で、これがけっこー軒先で通行の邪魔になっていたりしますけれど、もちろん梢は構っていられません。
「恐らく、息子さんが犯人……という線は無いでしょう」
　ふいにつぶやいた梢へ、奥さんはきょとん、と首を傾げます。梢も知る、奥さんの息子を容疑者から除外したのには、理由がありました。
「なぜならその時間帯は、息子さんが大好きなアニメ、『半壊ボッチ』の再放送があるからです！」
　ばばん！
「息子さんが、それを見逃すはずはない。とすると、犯人は……」
　と、梢はそこで何かに気付き、ハッとした顔を浮かべます。当然楽団員たちが、彼女の閃きに呼応するように、じゃじゃん！　と大きく効果音を鳴らしましたけれど、それはさておき。
　梢は、家の庭先に落ちているハンカチを取り上げると、まじまじと見つめます……そう、これこそが犯人を示す、重要な手がかり！
「まさか……犯人は」
　ＢＧＭが盛り上がっていく中で、名探偵コズエはついに、たどり着いたのです。真実へ！
「……奥さん。今日は、あの子が遊びに来ましたね？　そう、息子さんの友達である、あの子です」
　唐突な言葉に、奥さんは再びきょとりと首を傾けつつも、確かに、とうなずきます。
　梢が掲げて見せたハンカチには、ひとつの名前が記されていたのです。それこそが、犯人の残した証拠。そこからたどり、梢が結びつけた推理とは！　ばばばん！
「犯人は……息子さんの、お友達！　テレビに夢中で構ってくれない息子さんに焦れた犯人は、仕方なくワンちゃんと遊ぼうとして、うっかり首輪を外してしまった。ワンちゃんはこれ幸いと走り出し、犯人はそれに驚き、現場から逃走したのでしょう。それが真実……はっ！？」
　真実を導き出した名探偵は、そこではっと、重大な事実に気付きます。
　犯人を推理することはできました。けれどそこには、のっぴきならない現実というものが立ち塞がっていたのです。
「……犯人が分かっても、ワンちゃんは帰って来ませんよね。ああ、探偵とは何と、かくも悲しき職業なのでしょーか」

♪『名探偵コニャン　事件解決』

演奏　ユメギワ空想楽団

「さー、探しに行きましょー！」
　ハンカチをひらひらと振る奥さんに見送られて、梢は駆け出します。辺りに響くのは、探偵の悲哀を表すような物悲しいＢＧＭ。
　夕日をバックに、三つ編みの少女と、いくつもの楽器を携えたシルエットたちが、ゆらゆらと踊りました。