ミッドナイト・フリーキー・ショウ！　～ユメギワ空想楽団｜リアクション

ミッドナイト・フリーキー・ショウ！　～ユメギワ空想楽団

【たとえば、思い出の歌】

「ふわぁぁぁ……おはよー」
　と、雨寺凛は起き抜けの瞳をこしこしと手の甲でこすり、身を起こして、ふわぁ。もひとつあくび。
　外からはちゅんちゅん、鳥の鳴き声なども聞こえてきまして、何とも穏やかで気持ちのイイ朝！　凛はたまらず、
「……よーし！　今日も一日、楽しく元気に過ごすよーっ！」
　んーっ！　と思い切り伸びをしてから、凛はずばっと軽快に飛び起きます。こんなに爽やかな良い朝に、のんびり寝転んでなんていられない！
　まずは洗面台へ。顔を洗って頭がシャッキリとしたら、軽く朝食をとって、制服に着替えて、学校へ……と、思ったところで。
（？　なんだろ、何か聞こえる？）
　そこでようやく、気付きました。
　窓の外から聞こえてくる、頭の芯に残る眠気を徐々に追い出し、覚醒させてくれるような。何だか楽しくなってきてしまうような、軽やかな……音楽？
（あ……）
　爽快な朝を演出するのにふさわしい、それは管弦楽の調べ。
（これ……『ザ・フライング・ストーンズ』の、『ジャンピン・フラッシュ・バック』だ！）
　耳に馴染んだそのメロディが、凛の頭の中を瞬く間に、ぱあっ！　と晴れ渡らせてくれました。
（うわぁ、懐かしいなぁ。昔良く、パパと一緒に聞いたっけ……）
　思い出の曲。寮暮らしの凛にとっては、小さい頃、父親とのひと時を脳裏へと浮かび上がらせてくれて、そしてちょっぴりホームシックを感じさせる、そんな一曲です。ギターを弾くようになってからは、自分でもそのメロディを奏でてみたくて、父に教わりながら練習に打ち込んだものでした……おかげで凛は、今ではこの曲をバッチリ、完璧に弾きこなすことができました。
「……ああ、もう、いてもたってもいらんない！」
　思わず彼女は、部屋の片隅に置いてある愛用のギターを引っつかむと、自室をどかんと飛び出します。
「これは、私も混ぜてもらうしかないでしょ！」
　ずどどどど！　心躍る音楽の発信地めがけて、一直線！

　彼らは桜花寮のすぐ目の前、道路の真ん中に立ち、真っ白なスーツにぴしりと身を包み、それぞれに楽器を携え、演奏していました。
　黙して語らず……以降、誰かにその名を告げることも無い彼らのために、ご紹介しておきましょう。
　彼らは、『ユメギワ空想楽団』！
「私も、混ぜてくださーいっ！」
　ギターを手に駆け込んできた凛を、気のいい彼らは歓迎し、すっと手のひらで示し招き入れてくれます。まるでそれが、当然のことであるかのように。

♪『ジャンピン・フラッシュ・バック』

ザ・フライング・ストーンズ
演奏　ユメギワ空想楽団 with 雨寺凛

　ギンギンにうなるギター！　一歩引き、凛の演奏を全面的にバックアップするオーケストラ……彼ら楽団の演奏は巧みでプロ顔負け、凛も舌を巻くほど。
　けれどそれに負けじと、凛も手を翻し、激しくギターを弾き鳴らします。思いっきり！
（すごい……あの時のパパとの思い出が、蘇ってくるよ……！）
　記憶と音の広がりに、ふと見上げれば……桜花寮の窓に取り付けられた小さなバルコニーに、ヴァイオリン。トランペット、フルート。スネアドラム！　各窓に数人ずつ、白いスーツの楽団員が顔を覗かせて、それぞれの音を空へと派手に響かせています。
　きっとこの音楽は空を飛び越えて、島の隅々にまで、そして凛の大好きなパパやママのところへも、余さず届いていくことでしょう。
「ねっ、パパ、聞こえてる？　教えてくれた曲、こんなに弾けるようになったんだよー！」

　気付けば遅刻寸前。けれどいつになく軽い足取りで通学路を駆ける凛は、どうしようもなく昂った心のままに、空へ向かって叫んだのでした。
「気っ持ち良かったー！　まるで、ロックスターにでもなった気分っ♪」

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