ミッドナイト・フリーキー・ショウ！　～ユメギワ空想楽団｜リアクション

ミッドナイト・フリーキー・ショウ！　～ユメギワ空想楽団

【ＯＫ！】

　晴天の昼下がり。旧市街を訪れた旅鴉月詠は、スケッチブックをとペンを手に、優雅なお散歩中であります。
「そうだな。今日は、何か動的なものが描きたい気分だ。猫的な……やあ、昼寝かね。気持ちが良さそうだな」
　旧市街には猫たちもわんさかいるわけでして、月詠は彼らと挨拶など交わしつつ、てくてく。
　そんな中。にゃあにゃあとざわめく猫たちの声を聞きつけ、月詠が空地へ足を向けてみますと……そこでは二匹の猫が対峙し、一触即発！
（ほう、ケンカか）
　睨みあう猫たちのうち一匹は、金髪めいた明るい色の猫で、首輪は無く、風来坊な野良猫のようです。
　もう一匹は、巨体を誇るボス猫。額に刻まれた十字傷は、数々の激闘を戦い抜いてきた証なのでしょう。
（ちょうど良い）
　と、月詠は二匹からは離れたところ、放置されている空き箱の上に腰かけ陣取ると、睨みあう彼らを、本日のスケッチの題材とさせてもらうことにしました。さっそく、ペンを白いページへと走らせ……ようとしたところで。
　背後にごそごそ、多数の人間の気配を感じたのは、その時でした。
（……なんかいる……）
　そう。
　ずらずらずらっと、振り返れば白いスーツを着こなし楽器を手にした、ユメギワ空想楽団！
（……構えてる……）
　ヴァイオリンの弓やら、ドラムのスティックやらを構えつつ、けれど彼らがそれを弾き始めないのは、どうやら月詠がスケッチを始めるのを待っているようです。
　しばし、ヴァイオリン奏者のおじさんと見つめあっていたら、手のひらでやんわり、すっと促されました。
「……えー。気にせずどうぞ、というところかな」
　おじさん、こくこく！　と嬉しそう。
　ちょっぴり悪戯心が湧いてきた月詠は、試しにスケッチブックをぱたん、と閉じてみますと、彼らはガーン！　と音が聞こえそうなほどに落胆の表情を浮かべたり。がたたんっとズッコケそうになったり。
「まぁいい、面白そうだ。やってみたまえ」
　と言って月詠が再びスケッチブックを開けば、ぱああ……！　と嬉しそうな顔が並びます。意外と彼ら、感情豊かなようです。

♪『レクイエムニ短調 K.626 Dies irae』

Ｗ・Ａ・モーツァルト
演奏　新世界ユメギワ空想雑技団

　そんなわけで、月詠の鉛筆が走り始めたのと同時に、張り切って演奏を始めた楽団員たち。
　目の前では二匹の猫たちが、ここら一帯のテリトリーを巡って、激しいバトルを繰り広げております。
「……格ゲー？」
　思わずつぶやいた月詠……いえもちろん、彼女とてそれが、かのモーツァルトのレクイエムからの一曲であることは知っています。ただ、目の前のこの状況……『Dies irae』をバックにラストバトルを戦う、格闘ゲーム『ニャロウ伝説すぺしゃる』の演出に、そっくり！
　見れば猫たちも、楽団の演奏に影響されたものでしょうか、いつの間にやらすっくと二本立ち、格ゲーキャラばりのアクションを繰り広げております……金髪猫がジャンプキックからボディブロー、必殺技・ニャーンナックル！　の連続技をキメたかと思えば、巨体のボス猫は飛び道具のニャリッツボールを連打して反撃！
「おお。良い勝負だ」
　猫たちの攻防、最高潮へと向かって駆け上がる荘厳なクラシックの響きに、月詠のペンの迸りも絶好調、しゅばばばば！
　しばしの激闘が続いた後に、金髪猫が放ったダメ押しのニャーンナックルが、どかんと炸裂！　ボス猫の巨体がゆっくりと傾き、ずしんと倒れたところで、勝負は決着。
　楽団の演奏も、ヴァイオリンがじゃん、じゃん！　と盛り上がりのままに締めくくり、空地の決闘は幕を下ろしたのでした。

（……何がしたかったのか）
　現れた時と同じく、演奏を終えれば物言わぬまま、ぞろぞろと立ち去っていくユメギワ空想楽団。
（いや。それが、彼らの存在意義なのだろう）
　月詠はその背中を見送りつつ、スケッチブックで展開するケレン味たっぷりな猫バトルの後ろへ、スーツ姿の楽団員たちをしゃしゃっと描き入れまして、ふっ……と満足げに微笑みました。

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