ミッドナイト・フリーキー・ショウ！　～ユメギワ空想楽団｜リアクション

ミッドナイト・フリーキー・ショウ！　～ユメギワ空想楽団

【ブースト！】

　そう……彼らは、ユメギワ空想楽団。真白いスーツに身を包んだ、総勢３０余名からなる、謎の交響楽団。
　彼らのことは、何も、まるで分かりません。一見普通の人間のようで、語る言葉は常に無く、人の好さそうな笑顔を浮かべるまま、ただ彼らはどこへでも現れ、どんな状況であっても、奏でるシンフォニーは聞く者の心を目に見えて動かし、多大なる活力を与えてくれました……たとえば、こんな場所であっても。

「っぷはぁ！」
　ざばん、と水面から顔を出した志波武道の表情は、いまひとつ冴えません。
（うーん。調子上がらないナァ……）
　ぷかぷかと彼が浮かんでおりますのは、いつも自主練のために訪れている、寝子島スポーツセンターの温水プールです。
　今日は、泳ぎ始めの一本目に計ったタイムがなまじ良かったためか、その後がどうにも奮わず。疲労に少し、身体も重たくなってきたような気がします。
（ま、もう一本行ってみるか……ん？）
　水をかき、再びコースへ……と。
　視界に異様なものが目に入り、武道はぱちくり、目をしばたかせました。
「……が、楽団？　ナンデ楽団の人たちイルノー！？」
　大きな大会などには、管弦楽団が呼ばれたりすることもあったり……としても、今日はそんなことも無いはずでして。プールサイドの一角にて、清潔そうなスーツを着込み、ずらずらずらり！　手に手に楽器を携えた彼らの姿には、武道も違和感を抱かずにはいられません。
　けれど、ひとたび彼らが演奏を始めたなら。そんな不信は、どこへともなく吹き飛んでしまいました。

♪『マタタビアン・ラプソディ』

NYAEEN / 演奏　ユメギワ空想楽団

（あ……何かこれ、落ち着くな）
　それこそが、彼ら楽団の奇妙なところではありました。ゆったりとしたメロディが、いつしかゆらゆらと揺れる水面とシンクロし、心地良くて、癒されていくようで。気付けば疲労もするりと消え去り、タイムが出ないことへの焦りだって、今は全く感じません。
（まぁ、特に害は無さそうだし……イイカナ。このままで）
　思えば、不思議なことには事欠かない寝子島。武道はひとまず、この心地良いこのリズムに身を任せて、泳ぎを再開することにしました。
　曲はゆっくり、軽快で、水をかくタイミングへぴたりと合わせるように、驚くほど自然にするりと耳へと入り込んできます。そのためか、武道の泳ぎも大変に好調で、
（なるほど、ＢＧＭを聞きながらっていうのも、悪くは……）
　楽団の奏でる曲調が徐々にテンポアップし、激しいリズムへと変化し始めたのは、コースの半ばほどを泳いだ頃でした。
（……！？　何だ？　いつにもまして、ストロークが……蹴り足が速く、強く……？）
　曲がペースアップするにつれ、まるで武道の内側から、どんどん力が湧いてくるかのようです……スピードはどんどん増して、これなら先ほどから越えられなかった一本目のタイムだって、軽々と抜き去ってしまいそう！
（い、いや……ちょっと待て、それどころじゃないぞコレ……！？）
　魂を強く揺さぶるような、この演奏！　呼応して、ばくばくと猛るように鳴る心臓……息苦しさを感じたあたりで、武道は音楽が、過剰なまでに自分の力を引き出していることに気付きました。
　壁を蹴ってターン！　瞬く間にコースを往復し、見る間に近づいてくるゴール……それでも彼は、止まりません。止まれません！
（ま……マズイ！　これ……限界、越えて……ッ！？）

　静かなプールサイド。賑やかな楽曲は既に途絶えて、白いスーツの人影は微塵もなく。
　やってきたプールの利用客が、彼に気付きました。
「……ギャーーーッ！？　だ、誰か溺れてるわー！？」
　徐々に遠のいていく意識。おぼろげな頭の片隅にそんなオバチャンの悲鳴を聞きながら、仰向けにぷかぷかと浮かぶ武道は、お腹に溜まった水をぴゅうっと口から吹きながらに、
（……タイム……どうだったカナー……？）
　止める者の無いストップウォッチへ、ぼんやりと思いを馳せました。

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