Search for lost books｜リアクション

Search for lost books

　猫鳴館。逆巻天野の部屋は本と資料が積み上げられていた。その塔は崩壊を待つような不安定さで立っていた。
　寝子島高校の図書室から借りた本、貸出不可の本については必要な範囲をコピーしてあった。借りきれなかった分は寝子島の図書館からも借りてきている。

　彼の借りた本は主に『寝子島高校卒業文集』。他には『寝子島の風土』などの資料も確保してあった。
　そうして彼なりに纏めた成果は、図書室で調査をしている龍八のようにファイリングしてあるのだが、これもまた雪崩の危機を迎えている。

　「この島に来て一ヶ月か」
　と、天野は独りごちる。
　入学式から始まってあっという間に見えてその間にも色々あったと彼は思う。
　落神であるののこに端を発した事件、事故に多く関わってきた１人である天野は『普通ではない日々』を終わらせるためにはどうすればいいか真剣に考えていた。
　それは寝子島に住んでいた親友の為でもあった。

　（彼女が生きていたら一緒に寝子高に通う約束だった。彼女の見てきた『普通の寝子島』は何処にあるのだろう）

　感傷とともに、古びた猫鳴館の天井へ視線を移す。
　「猫鳴館のこともある」
　そう言って、猫鳴館絡みのことをファイリングした資料に目を向ける。
　そこには『ねず』や『廃寮』など付箋紙がいくつも貼られていた。
　廃寮問題についても彼は真剣だった。

　「確かまだ返却期限には時間があるな」
　彼はそう呟いて資料の編集を再開する。
　卒業文集は量もあり、全てに目を通せてはいないが、現状だけでも収穫があったと彼は感じていた。

　１つは寝子島高校卒業生である教師、泉竜次と白沢絢子の卒業文集が見つかったこと。
　内容は特筆すべきことは多くはないのだがそれ以外の生徒の分も照らし合わせて面白いことが書いてあった。
　それは当たり前の寝子島の景色でもあり、彼が求めていたことでもあった。
　風土資料も含めて彼は以下のように纏めた。

　『寝子島の北西部には鍾乳洞があり、九夜山方面に伸びているが支洞含めて未探査部分も多い。泉先生はそこを卒業するまでに踏破しようとしていた』
　『昔から猫が多く、猫とともに生活を歩んできた』
　『寝子島の歴史において落神伝説が特徴的であるが、史跡である落神神社を除いて歴史的資料は散逸している』
　『寝子島には明治大正時代に横浜からやってきた外国人の異人館がいくつか建っている』
　『気候は温暖。海と山に接した環境からか食文化は豊富である。平地が少ないため米は本土から、もしくは小規模な棚田で稲作が行われている』

　「北西の洞窟もそうだけど鈴島についてもあまり知らないな」
　と天野は鈴島関連の文献を漁る。

　『鈴島は大昔の海底火山の爆発によって現在の形となった。なお、現在は無人島であるが人が住んでいた時期もあり、朽ち果てたレンガ造りの建物などが放置されている』
　『鈴島には謎の遺跡がある。という噂が白沢先生の世代では流れたらしい。だが確認に行った生徒はいなかった』

　「先生たちに直接聞くというのも手か」
　そんなことを考えながら、彼は文集の中でも特に気にかけている３０年前の猫鳴館闘争時代の物を手に取る。
　そこには、それ以外の時期にはなかった検閲というものが入っていた。
　黒塗りで消されている部分は桜花寮建設に伴う猫鳴館の取り壊しの経緯や取り壊し反対派の意見などであると彼は推測した。むしろそれ以外に理由がないとも言えるのだが。
　「しかし、３０年前から現在に至るまで、『廃寮になるかもしれない』という不安を猫鳴館生は少なからず持っていたのか」
　先日の星ヶ丘寮での剣崎エレナの言葉を思い出し彼は考える。
　「猫鳴館に住むのはイレギュラー、異常ね……」
　『普通じゃない』と思う一方で、猫鳴館もまた寝子島の日常風景に入るはずだと文集を読んで彼は感じていた。

　トントン。

　彼の部屋に控えめなノックの音。

　「……誰？」