Search for lost books｜リアクション

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５．調べ物のファンタジア

　返却キャンペーンの一方で、図書室を頻繁に利用する生徒も増えていた。
　毎日通いつめては持ち出し不可の資料を机に広げて真剣な顔でレポート用紙に纏めているのは三つ編みの男子生徒草薙龍八である。
　彼が調べている内容は幅広くそして分量も膨大であり、資料をまとめるだけでも時間がかかっていた。

　彼の調べていることの１つである、落神伝説に関わる動物の事柄は、そもそも落神伝説自体が文献資料として残っているのかすら怪しいレベルであり、日本各地の古い神話や伝承などを纏めた民俗学系統の本を総当たりしている有様である。
　寝子島の郷土資料からも拾えるものがないかとまとめて行くがどれもこれもが真偽がはっきりしないという状況でもあった。
　そんな中で彼が見つけた情報を断片的に挙げていくと以下のようになる。

　『神につき従う猫』
　「寝子島だしな。テオの存在もある」
　と、可能性があると判断し龍八は赤いラインをレポートの該当部分に引く。　
　『神に襲い掛かる大蜘蛛』
　「……古代日本の土蜘蛛のことか？」
　首を捻りつつも否定できないと考える。落神と敵対する存在は未知であるからだ。
　『神の前で婚姻を上げる狐』
　「狐の嫁入りか。これは日本各地に伝わるような伝承に過ぎないからな」
　と、×印を入れようとして手を止める。
　「テオのように意志がある動物であればどうだ？　もしくは落神の化身というのも」
　世界各地の神話との比較をしつつ彼はこの項目を保留とする。
　他にも、様々な情報が彼のレポートに記されていく。

　『神とともに歌う雲雀』
　『神の前に立つものに吠え立てる犬』
　『神の言うことを聞かない山猫』
　『神に絡みつく蛇』
　『神の道案内をする梟』
　『神に悪戯をする鼬』
　『神を背中に乗せる牛』

　そのどれもが肯定も否定もできないとして彼の資料と思考は混迷を極めていく。
　そして、彼が探していた動物の名前に辿り着く。

　『神のことを見続ける烏』
　「……カラスか」
　これもまたはっきりしない記述だなと彼は思う。敵なのか味方なのかはっきりしない上に、日本には八咫鴉と呼ばれる日本神話の神の使いが存在する。
　他の動物の記述よりも気になるのは以前の事件で遭遇したせいなのか、それとも自分の直感なのか判断できないまま、結局彼は他と同じように赤いラインを引くに留めた。

　そして彼のもう１つの調査項目である寝子島における近年の事件の調査もまた難航していた。ののこが落ちてきた時期より前に、ろっこん能力のような不思議な事件がなかったか調べようとしたのだ。
　その為に寝子島高校の卒業文集や寝子島の風土史などを中心にあたろうとしていたのだが、それらが誰かに借りられたまま返ってきていなかったのだ。
　結果的に、寝子島の地方新聞などから資料をまとめた結果それは彼としては満足の行かない結果となった。

　「こちらも真偽不明。というか、寝子島タブレット並じゃないか」
　と、自分で纏めたレポートに不満を覚える龍八。
　それもそのはずで、平和そうな寝子島といえど大小様々な事件があってそれは昔から変わらないものである。
　そして、不思議な事件といえば面白可笑しく書き立てるようなゴシップ紙の役割となるわけで、以下のようなことが書かれていても彼はそれを可能性の面から切り捨てる訳にはいかないのである。

　『桜台墓地に幽霊現る！』
　『エノコロ灯台で紐なしバンジーする怪人』
　『寝子杉の伝説その４』
　『鈴島に眠る古代遺跡』

　「……」
　収穫無しとは言い難いが、収穫があったとも言えない。そんな結果になりそうな予感を覚えつつ龍八は挫けずに地図を広げ、歴史資料と照らし合わせるのだった。