星ヶ丘寮の『ＰＫ』｜リアクション

星ヶ丘寮の『ＰＫ』

７.星ヶ丘の事情と猫鳴館の理由

　エレナ邸、応接間。
　「待たせたわね」
　そう言ってエレナがやってきた頃には、天野も到着していた。大福やひびきとの意見交換も終えたようだった。

　「何の用かしら？　と聞くまでも無く、なんとなく分かっているけれど」
　と、エレナ。
　いつになく真剣な表情で３人の来客を見つめる。
　ヘッドフォンをしたままの大福、やる気に溢れているひびき、そして飄々とした天野。
　「分かってるなら、俺らの居場所取り上げないで欲しいんですけど」
　まずは大福がジャブを放つ。
　「別に星ヶ丘寮生が猫鳴館を取り上げるわけじゃないわ」
　エレナはきっぱりと切り捨てる。
　「じゃあ、エレナ協力してよ！　生徒会長になりたいんなら猫鳴館の信任は得られるよ！」
　猫鳴館はいいところだよーと付け加えながら、ひびきが提案する。

　「勘違いしているようだけど」

　少し大げさにため息をついてエレナは間を置く。彼女の言葉を待つ３人。
　「そもそも、廃寮の噂なんて今に始まったことじゃないわ。ただ、最近は少し声が大きくなったってだけ。それに、学校側から正式に認められていないと３０年前に決まった場所に今も住んでいる事実そのものがイレギュラーなの。そして、言われたから答えるけれど、生徒会長になるために打算で動くつもりはないわ。止めもしないけど協力もしない。それが私の立ち場よ」
　声を荒げずにけれど滑らかに言い終えたエレナはグラスに注がれたミネラルウォーターを少し口にする。
　わずかな沈黙。３人がそれぞれ視線を巡らせてエレナに対する言葉を選んでいるようだった。
　「じゃあ、廃寮の噂をしている、もしくは推進している中心人物を教えてくれませんかね」
　と、大福。密かにろっこんを発動しながらエレナの心中を探っている。聞こえてくるのは言葉通りの本心ばかりであったが。
　「そうだよ！　『ＰＫ』事件について積極的に動いてくれてるのも猫鳴館の皆だよっ」
　興奮したようにひびきも続く。
　「猫鳴館は近々、自主的な復旧工事を開始予定です。猫鳴館は寮も人もまだまだやっていけるということを伝えたいのです。もし、その人物に会うことができなくてもそういった噂を流すことで廃寮の声を小さくすることができるはずです」
　天野が淡々と語る。

　「……」
　「……」
　「……」
　「……１つ」
　エレナは目を瞑り、思案顔の後、沈黙を破る。
　「１ついいことを教えてあげるわ。星ヶ丘寮の問題を他寮生が乗り込んで解決する。それはとてもありがたいことでもあり、そして迷惑でもあるのよ」
　
　「まじかよ……」
　「にょえ？」
　「だろうね」
　三者三様の反応。

　「確かに星ヶ丘寮生が協力を求めたという事実はあるわ。だけど、『ＰＫ』事件をだしに、他寮生が暴れてもいいというのを認めたわけではないのよ」
　３人の顔を見てさらに言葉を続ける。
　「それでも、私たち星ヶ丘寮生にも責任があるから、私は『ＰＫ』事件に対して積極的に動いてる。そうじゃないと他寮生……猫鳴館の方々にも申し訳ないもの。だから、『ＰＫ』事件を解決できたなら、その人物について教えてあげてもいいわ。これは交換条件よ。貸し借りなしの」
　それは筋の通った物言いだった。
　どうにかしてエレナを仲間に引き込もうとしたひびきの目論見は崩れ去り、大福と天野の２人は『ＰＫ』事件をどうにかするしかないと決意を新たにしたのだった。

　そして、この会合が終わりを迎えようとした時、４人の携帯がメールの着信を告げた。

　
　『我ラＰＫヲ捕捉セリ。殲滅スル』