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１．図書委員会のオーヴェルトゥーラ

　寝子暦１３６９年４月Ｘ日。
　未返却図書回収キャンペーン初日。
　寝子島高校北校舎３階、図書室は普段よりも賑わっていた。

　慌てて本を返しに来る生徒、これを機会に本を借りに来る生徒。
　図書委員の手伝いをする生徒、逆に何かを企む生徒。
　十人十色の生徒たちと共に、慌しく時間は過ぎていく。

　「にゃは♪　大盛況だにー」
　ベリーショートの髪を揺らしながら、返ってきた本を抱きかかえて図書室内を早足で歩くのは七音侑。１年１０組の図書委員である。
　放課後の遅い時間というのに、それでもまだ人が多く残っており、その中には寝子島高校の卒業生も含まれていた。
　思い出話も程々に、長い年月を旅して本たちは返っていく。

　寝子島在校生以外の返却が増えたのには理由があった。

　キャンペーン前日。
　司書教諭である早川珪が主導の臨時の図書委員会が行われた。
　臨時であった為、部活や補習、３年生は修学旅行の説明会などその他様々な都合により参加のできない図書委員もいたが、それなりの出席率だった。
　「皆さんも知っての通り明日から５月上旬までの間、未返却図書の回収キャンペーンを行います。それに伴ういくつかの説明と注意事項を挙げたいと思います。では……青野さん、お願いします」
　珪が生徒を見回した後、参加した委員の中で唯一の２年生である青野海仔を指名する。
　「うちか。先に配布されたプリントを見て貰いたい。キャンペーン開始に伴い、図書室の利用者の増加が想定される、通常業務は手の空いたものでよいので積極的に手伝っていただきたい。また、回収業務に関する対人トラブルについては気をつけること、判断に困った場合は司書教諭に連絡相談すること。当たり前だが、校外の回収に出る生徒は交通ルールを守ること。夜間の回収は原則禁止。細かいことについては各自で見て貰いたい」
　眠そうなと形容された瞳のまま、海仔はプリントの内容を要約して読み上げる。
　「青野さんありがとう。委員以外にも協力してくれる人がいたら手を借りていいからね。他にも回収や整理に関するアイデアや質問、相談あれば気軽に僕までお願いします」
　と、海仔に続けて珪が補足を入れる。
　「おう、先生」
　手を挙げたのは桜崎巴、１年３組の図書委員である。鋭い目元のせいか、それとも少しばかりアナクロな外見なせいかその姿には威圧感があった。
　「はい、桜崎さん」
　珪の言葉を受けて巴が言葉を続ける。
　「未返却リストも協力してくれるヤツに見せても問題ねぇのか？」
　未返却者の一覧と本の題名が纏められているリストについて質問をする。
　「一応、閲覧とコピーには僕の許可が必要なんだけど。まぁ、今回に限ってはそのリストの情報を意図的に広めたりしない限りは許可しようかな。個人情報にあたるからね」
　意見に対して柔軟に対応する珪。
　「信用できそうなヤツだけに限ればいいってことだな！」
　巴は納得したように頷く。
　「リ、リストはたくさんありますし……コピーして……持ち出せる量を制限すればいいかも……しれません」
　慎重な意見を出したのは１年２組の図書委員の勅使河原悠である。緊張しているのか少しばかり顔が赤い。
　「そうだね、勅使河原さんありがとう。他にも意見やアイデア気楽に出してもらえると嬉しいな」
　珪が微笑むと悠は恥ずかしそうに下を向く。そして委員会では少しずつ様々な意見は飛び交い、役割分担などが決まっていった。

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