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風がたゆたう。
足が止まる。
遠く澄んだ空に白々と輝く月を見上げる。眼鏡の硝子に月を映す。肩口に流れて落ちる三つ編みに結った黒髪を指先につまみ、ぽいと背中に弾く。月映した黒い瞳を人通り少なな参道商店街へと向ける。
石畳の道の先、『貸店舗』の文字さえ擦れた古い個人商店が月明かりを浴びて佇んでいる。降ろされて久しい、凹んで汚れたシャッターの前、亜麻色の髪の少女がひとり。
白銀の月明かり浴びた髪を金色に染めて揺らし、ただ静かに立つ小柄な少女をその目に捉え、市子は咄嗟に睫毛を伏せる。
(……どのツラさげて言やーいんだ)
悩んでも悩んでも、答えが出せなかった。先日顔を合わせ、音と声を重ねたその後でさえ、どうしても伝えられなかった。
――島を、出て行く。
それを伝えられないまま、今日に至った。出立の日になってしまった。
(だから)
だから、本当はもうこのまま、いっそのこと何も伝えずに去ってしまうしかないと思っていた。
(……でも、)
メールが届いた。
夜露を降らせる秋の夜気を胸に満たし、市子は瞳をもたげる。上げた瞳が、待ち人が必ず訪れると信じて疑わぬ緋色の瞳と真直ぐにぶつかった。
「市子」
月影の中を歩いてくる市子の姿を目に、
仲村渠 鳴
は笑みを弾けさせる。初めて路上ライブをしたこの場所で落ち合おうとメールを送って、まさか来ないとは微塵も思ってはいなかったけれど、でも、あの日感じた胸騒ぎがいつまでも消えなかった。
不思議なスノードームでふたりで音を奏で、声を重ねたあの日から、ずっと。
あの時の市子は気になることを口にしていた。市子の傍らに居た彼女も、また。ふたりが敢えて言わないのならと聞かずに瞳を逸らしたけれど。聞かないつもりだったけれど。
「……少し、話せないかな」
メールしたのと同じ言葉を、鳴は月明かりに立つ市子に投げかける。初めてふたりで音を鳴らしたあの日のように、引き払われて数年来閉ざされたままのシャッターの前に腰を下ろす。何でもないように笑み浮かべて手招きすれば、市子は黒い瞳をどこか辛そうに瞬かせ、痛み堪えるかのように微笑んだ。
歩みを躊躇って俯き、意を決したように顔を上げる。大股に近寄り、背負ったズタ袋とギターケースを地面に置く。あの日と同じにシャッターに背を預けて大あぐらをかく。
不貞腐れた顔で不貞腐れた溜息をひとつ。
見慣れた面倒くさげな仕草と仏頂面に、鳴は思わず笑みを零す。
笑ってしまえば、ずっと気になりつつも聞けずにいた言葉は案外すんなりと唇から飛び出した。
「ねえ市子、前に『一区切りついたらどうこう』みたいな話してたけど、あれってどういう……」
「なあ鳴、」
鳴の問いを、市子は遮る。
「覚えてるか、この場所」
求められた答えと思い出話とをすり返る。
「えっ、……」
急な思い出話に一瞬言葉を詰まらせ、けれど鳴は大きく頷く。
「もちろん覚えてるわよ」
忘れるはずがなかった。忘れられるはずが、なかった。
月を、仰ぐ。
「色々あったけど全部ここから始まったのよね」
初めて互いの音を奏でて重ね、夜に謳い上げたあの日も、月が輝いていた。
白く蒼く、無数の光の矢を降らせる月光を真っ向から受け止め楽しげに微笑む鳴を、市子はそっと見つめる。当然のように肩を並べてくれる、――例えば妹のような、存在。
(妹だのイトコだの)
笑み崩したはずの唇が泣き出しそうに歪んでいることに気付いて、市子は殊更に不貞腐れた顔をしてみせる。
「だな、全部こっからだ」
最初は、市子からだった。
(イキナリ手伝えって無茶振り)
戸惑って断っても仕方がない話を、傍らの少女は当たり前の顔をして引き受けた。あの日、この場所で待ち合わせた時もろくな練習もしていなかった。その癖、こちらの音にきっちり食らいついてきて、
(正直ビビった)
なんだコイツ、そう思った。
それからは、夢のような怒涛の日々。
ふたりの奏でる音や声を幾度となく聞きに訪れる人が着実に増えて、その挙句、ネコフェスにまで出演した。あんなに大きな舞台でギターを弾けるなんて、考えてもなかった。
町の片隅でひっそりと歌い始めて、
「そっからなんだかんだで、今度メジャーデビューすんだぜウチら」
市子は、今度こそ笑ってみせる。
「冗談きちーよね」
「……市子の話に乗ったのも、今まで一緒に続けてきたのも、」
白々とした月明かりにさえどこか沈んで見える横顔で夢のような日々を語る市子を緋色の瞳に映し、鳴は胸の内を微塵も隠さず曝け出す。
「全部あなたと歌うのが楽しかったからよ」
まごころからそう口にして、ちらりと首を傾げる。
「……前も言ったっけ?」
少女の生まれた遠い南の島の空のように、一欠けらの濁りもなく鮮やかに明るく、だからこそ少し悲しいほどに澄んだ少女の心に、市子はどうしようもなく泣きたくなる。
涙の代わり、
「知ってたか?」
己の心も月明かりに曝す。
「全部鳴が居なきゃできなかったんよ。あたしヒトリじゃデビューどころか、」
黒髪を揺らし、首を緩く横に振る。背を預けたシャッターが震える。
「ソモソモ路上演ってたかすらアヤシーし、……イヤ座ってたけど」
自分で自分を茶化してみせて、傍らの鳴に笑えとばかり笑いかけて、鳴の伏せた瞳に唇を引き結ぶ。
鳴は瞳を持ち上げる。真直ぐに市子を見つめる。
「あたしだって、……市子がいたから自分の居場所を見つけられたようなものだし……」
縋るように零して、肩並べて歩いてきた市子に縋り付いて甘えようとしている自分に思い至る。唇を一瞬噛み、大袈裟に笑う。
「って、何言わせるのよ!」
なんか恥ずかしくなってきた、と芝居じみて両手で顔を覆い隠す鳴に、
「ザマーミロ」
市子は肩をすくめて舌を出す。彼女が口にした『居場所』が胸に深く刺さったことは見ない振りして、笑う。
「つーかバカヤロ聞いてるコッチがハズカシっつーの」
痛む胸は無視して、笑い続ける。
「演劇フェスでもさ、相方共々サマになってたじゃん」
「……市子」
「歌声が目に見えるみてーだった」
傍らから聞こえ始める鼻歌に、鳴は瞳を伏せる。
質問に答えることをここまで避けるということは、何か理由があるのだろう。答えてもらえないのは寂しいけれど、
(やっぱり聞かない方がいいのかな……)
「鳴」
不意に自分を呼ぶ市子の声に、視線を過ぎる銀色に、鳴は慌てて瞬く。目の前を落ちようとする硬貨を両手で挟み取る。
「飲み物買って来てくんねーか、あったけーヤツ」
「うん、……いいけど」
オゴっし、と市子は親指で弾き飛ばした五百円玉を示す。僅かな不審を寄せた眉に表しながら、それでも素直に立ち上がり近くの自販機に向かう鳴の背中を見送って、
「……さてと」
そっと立ち上がる。ギターケースはそのままに、ズタ袋を開く。途端、ハチワレ頭の小さな猫がひょこりと寝惚け顔を飛び出させた。伸ばした掌に顔を押し付け、くるりとした瞳を瞬かせる猫を抱き上げ、ギターケースの上に座らせる。
「鳴のコト頼むな」
頭を撫でられ、猫はこくりと首を傾げた。ギターケースの上に前肢揃えて座る猫の傍ら、市子は鳴に渡そうと決めていて、けれど手渡せずにいた物を置いてゆく。黒瑪瑙と水晶の珠連ねたお守り、桜香油の香りの染みついた真鍮製のキャンドルランプ、それから、シンプルなメッセージカード。
心からの文字を連ねたメッセージカードに、祈り籠めて額を寄せる。ギターケースの上で寛ぐ猫にカードを託し、もう一度頭を撫でる。少し軽くなったズタ袋だけを肩に、自販機の前に立つ鳴の背中をもう一度だけ見やる。それきり、振り返らずに踵を返す。月の光届かぬ路地を足早に歩み始める。
寝子島駅への道を辿りながら、夜空を仰ぐ。冷たく湿った雨のにおいを嗅いで、猫のように鼻先を空に上げる。
深呼吸を、ひとつ。吐き出した白い息が月に吸い込まれて消えるまで待って、ポケットのスマホを取り出す。足取りは緩めぬまま、今別れて来たばかりの鳴の番号を呼び出す。
『市子?』
シャッター前に戻り、置き去られたギターやランプに異変感じ取っていたのか、鳴からの応答は早かった。
「鳴」
『一体どうしたの』
「落ち着いて聞いて」
『……え?』
『あたしな、今夜島出てかなきゃいけねんだ』
その一言に、血の気が引いた。言葉を失った。
『いつ戻ってこれるか、ソモソモ戻れるかどーかも……分かんねーし』
「……何言ってるの?」
やっと出て来た声は、ひどく掠れていた。忘れていた息が戻った途端足から力が抜けそうになって、けれど懸命に踏ん張る。ここでへたり込んでしまっては、もう何も言えなくなってしまう。
「どうしたの、なんで急にそんなこと……」
『だからさ』
「嘘でしょ?」
信じられなかった。言葉連ねて問い質したかった。せめて目の前で言ってくれれば、手を取れたのに。掴んで離さずにいれたのに。
「嘘だよね!?」
『ごめんね』
電話の向こうで囁かれる市子の声を攫って、電車の音。
『もー電車来たし、……切るし』
「待って、市子」
『鳴』
「市子がいないと、あたし……!」
『――ありがとう』
その言葉を最後、もう何も聞こえなくなる。
今度こそ立っていられなくなって、置き去られたギターやランプの前、市子と歌う時にはいつも傍にあった品々の前、鳴はへたり込む。胸に抱えて持って来ていた温かい缶コーヒーが地面に落ちて転がる。
何が何だか、分からなかった。
「……どうして、何も言ってくれなかったのよ……」
呟いても、もう届かない。
呆然とするしかない鳴の膝に、ハチワレ頭の小さな猫の手が触れる。
「……ハチワレ」
不貞腐れたような顔の猫の頭を撫でて、猫が口に咥えるメッセージカードに気付いた。手に取り、開く。
「狛猫の赤にして私の妹へ」
お誕生日おめでとう、と綴られる市子からの最後の言葉をカードごと胸に抱きしめて、カードの裏側に小さく書き込まれた文字が目に入った。
「……市子」
文字を瞳で追う。カードをもう一度胸にきつく抱きしめる。
誰かの吐いた息のように月を隠した雲からぽつり、雨の雫が落ちる。
触れる雨の冷たさから守ってくれるのは、胸に残る缶コーヒーの温もりよりもずっとずっと熱く優しく、いつまでも残る、『姉』からの祈り。
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阿瀬春
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シルバーシナリオ(150)
グループ参加
3人まで
シナリオジャンル
日常
定員
15人
参加キャラクター数
15人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2015年07月27日
参加申し込みの期限
2015年08月03日 11時00分
アクション投稿の期限
2015年08月03日 11時00分
参加キャラクター一覧
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