＜鈴島海賊の秘宝IV＞伝説の島リ・ウグウ｜リアクション

＜鈴島海賊の秘宝IV＞伝説の島リ・ウグウ

●情報交換

　路地裏、暗がりから呼びかける。
「もし。そこの黒服の貴方、シーノですね。私もです。情報を持ってきたのでリンコさんに会いたいのですが」

　仄が失敗したこの方法で、リンコとの接触を果たした者がいた。鬼崎あやめである。
　あやめには大きな強みがあった。相手の身体に５秒以上触れながら笑顔を見せることで相手を魅了するろっこん、＜リリスの微笑み＞である。相手が多少警戒しようとも、握手してにっこり、ただそれだけでいい。あやめはろっこんを駆使して、見事、黒服からリンコの居場所を聞き出したのである。

「……やるじゃない」
　リンコはあやめの顔を見るなり、そう言ってくすくす笑った。
　路地裏の空き家の裏で、ふたりは待ち合わせていた。
　リンコの計らいであたりは人払いがしてあった。
　ガタイのいい黒服がひとり、表通りの方を見張っているが、こちらの声が聞こえる距離ではない。
「てっとり早く行きましょう」
　あやめは声を潜める。
「今回のシーノ側の人数が２０人程度であること、各々ナイフや拳銃を所持していること、槍を手に入れるよう命じられていること、そちらにもれいびはいないこと、私たちが聞かされた歌は『時止まり我帰る』というものでしたが、シーノの皆さんが聞かされた歌は『時巡り我進む』の歌だという情報は、すでに入手済みです」
　あやめは黒服を魅了した際、これらの会話を引き出していた。
「こちらはすでに４本槍を手に入れました。そのうち一本は、そちらの手に落ちてしまったようですが、残りの三本は今頃王宮に集められていることでしょう」
「あら、それ、あたしに教えちゃっていいの？」
「かまいません。協力して欲しいことがありますから。……紹介します、サキリ君」
　何もない暗がりの中から、突如、サキリ・デイジーカッターが姿を現した。
　瞬間移動のろっこん＜斬空舞踏＞の使い手は、はじめからあやめと示し合っていたのだ。中性的な面立ちのサキリは、今この瞬間、赤い瞳に刃のような鋭さを煌めかせ、見定めるようにリンコを見た。リンコもまた同じ鋭さでサキリを見る。視線はぶつかり、溶解する。敵対する相手じゃない、そう悟りあって。
　サキリは一礼した。
「はじめまして。このような手段でお会いさせていただく無礼をお許しいただきたい」
「かまわないわ。堅苦しい挨拶は抜きにしましょ。で、あたしに協力して欲しいことって何かしら？」
「罠を仕掛けたいんだ。シーノの連中をそこに誘導してほしい」
　ふぅん、とリンコは面白そうに鼻を鳴らす。
「勝算はあるの？　失敗したらあたしけっこう危険よね？」
「もちろん私もお手伝いします。わりと役に立つと思いますが」
　あやめが握手のジェスチャーをしながらにっこり笑う。
　リンコはあやめとサキリを手で招き、顔を突き合わせると、今までよりさらに声を潜めた。
「……ま、話くらい聞いてもいいわよ？　あたしもあのリアージオには一泡吹かせてやりたいから」