温泉で、パジャマパーティー｜リアクション

温泉で、パジャマパーティー

　【３】
　一方、『松の間』の隣の『竹の間』では。
「……あ、壬生先輩！　先輩も来たんですねー」
　屋敷野梢が、目を丸くして声をかけた相手は、寝子高三年の壬生由貴奈だった。学年は違うが、知り合いである。ただ、ロビーに集まった時には、参加していることに気づかなかったのだ。
「……あっ、誰かと思えば、こずえちゃんじゃん」
　声をかけられ、由貴奈も目を見張る。
「偶然だねぇ。……っていうか、こずえちゃんも参加してたんだ。気づかなかったよぉ」
「私もでーす。お互い様ですねー」
　梢が明るく言って笑った。
　その顔を見ながら、由貴奈はふと思う。
（同年代の子と一緒にお泊りなんて、一年とか二年のころを考えると、信じられないねぇ。ぼっちだったし。こんなこと、修学旅行くらいでしか、経験ないからねぇ）
　それは今朝、お泊りの用意をしながら思ったことでもあった。
　そして、だからこそ楽しいパーティーにしたいと、カバンの中にはトランプやらうさ耳カチューシャやらといった、遊び道具を詰め込んで来た。
　もっとも、そのカバンから今取り出したのは、遊び道具ではなく、お風呂セット一式だ。
「まぁ何かの縁ってことで、せっかくの旅館お泊りだしねぇ、温泉はいろー」
　と由貴奈がふり返ってみれば、梢の方も手にはお風呂セット一式を持ち、三つ編みの髪は更に束ねてタオル地のバンダナでアップにまとめ、温泉に入る気満々である。
「そう、温泉ですよ、温泉！　さ、先輩行きましょうー！」
　レッツゴーでーす、と拳を突き上げ、意気揚々と部屋を出て行く。
「こずえちゃん、気合入ってるねー」
　そんなに温泉好きなんだーなどと笑いつつ、由貴奈もそのあとを追うように、部屋を出て行った。

　そんな二人を、幾分あっけに取られて見送ったのは、十文字若菜と神野マキナ、鴇波羽衣の三人だ。
　若菜は寝子高の二年生、羽衣は一年生で、マキナはすでに卒業しているものの、寝子高のOGだった。今は、実家の神野文具店を手伝っている。
　三人は、それぞれ年齢は違うが、誘い合って一緒に参加していた。
「梢ちゃん、温泉の方を楽しみにしてたもんね」
　苦笑して呟いたのは、羽衣だ。ねこったーで知った今日のパーティーのことを話した時にも、梢はパジャマパーティーよりも温泉の方に反応していたのだ。
「そうなのか。……たしかに、これからの季節は温泉も悪くはないがな」
　彼女の呟きに、マキナが言う。
「露天風呂で、紅葉を眺めながら温かい湯につかる、なんていうのは最高だ」
「私は、パジャマパーティーが楽しみだよ。お菓子も、手作りのを持って来たよ」
　それへ苦笑しながら、若菜が言った。
「そりゃもちろん、ぼくもそっちが楽しみだけどね」
　笑って返し、マキナは二人を見やる。
「だが、まだ夜までは時間がある。ぼくたちも、どこかに行かないか？」
「なら私、足湯に行ってみたいな。プールみたいなのとか、対面足湯とか、一人用のたこつぼ足湯があるって、旅館の人が言ってたし」
　羽衣の言葉に、若菜もうなずいた。
「私もそれ、聞いた時から気になってたんだよね。……マキナさん、どうですか？」
「そうだね。じゃ、足湯に行ってみようか」
　若菜に問われて、マキナもうなずく。
　とりあえず、タオルぐらいはいるだろうと、三人は自分の荷物からそれぞれバスタオルを取り出し、貴重品と共に手にすると部屋を出て行った。

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