温泉で、パジャマパーティー｜リアクション

温泉で、パジャマパーティー

　【４】
　『竹の間』の向かいは、『梅の間』である。
「はじめまして……の方も、そうでない方も、寝子高一年十組、常闇月です……」
　美弥子が作った部屋割りにしたがって、部屋に入って最初に常闇月がしたことは、自己紹介だった。
「君が、十組の――」
　その言葉に小さく息を飲んで、そちらを見やったのは、桜月だった。同じく寝子高の一年生だが、クラスは七組だ。
「あなたが、桜さんですね。同じ名前……いえ、同じ文字の名前だと、聞いています」
　常闇が、そちらをふり返って、静かに返す。
「ああ。だが、読み方は違うのだな。私は文字どおり『つき』と読ませるのだが、君は――」
「はい、『ゆえ』と読みます」
　うなずいて言う桜のあとを、常闇が続けた。
「それって、中国語だった気がするけれど……」
　横から言ったのは、今回の参加者で唯一、二十歳（はたち）を過ぎた大人の三夜深夜子だった。
「はい」
「読みを中国語にするなんて、個性的です」
　うなずく常闇に、感心したように夕鈴翼が声をかける。小学五年生の彼女は、今回の参加者の中で、最年少だ。
「そういえば、月さんも常闇さんも、名前どおり神秘的な感じがします」
　ふと思いついたように言ったのは、北条冬華だった。
　ねこったーを見て桜を誘ったのは、彼女である。
「別に、神秘的などということはない。私は普通だ」
　返したのは、桜の方だった。
「はい、それは知ってます。でも、雰囲気がなんとなく……ということです」
　冬華は笑って言うと、自分の荷物を置いて、室内を見回す。
「和室も、おちつきますね」
「そうだな」
　冬華の呟きに、桜がうなずいた。
　常闇は、二人につられるようにあたりを見回し、翼は室内を探検よろしく見て回り始めている。
　それらを見やって、深夜子は内心に小さく吐息をついた。
（やっぱり、参加者のほとんどは学生よね……）
　発起人が高校生の美弥子だという時点で、それは容易に想像のついたことではある。
　それでも参加したのは、もちろん「温泉でパジャマパーティー」という今回の催しに、強く惹かれるものがあったからだ。
「……が、学生が多くても、保護者役はいるわよね！　そうよね！」
　今回の催しを人づてに小耳に挟んだ時、彼女は自分で自分にそう言い聞かせ――それは、いわゆる大義名分とも言うが――美弥子に連絡を取ったのだった。
　彼女はもう一度、胸に吐息を落として呟く。
（まあ、いいわ。せっかく参加したんだもの。楽しみましょう）
　と、翼がその彼女の横をすり抜けるようにして、廊下側の扉へ向かう姿が見えた。
「あ……。夕鈴さん、どこへ行くの？」
　思わず尋ねた彼女に、翼は足を止めてふり返る。
「温泉です。足湯とか露天風呂とか、いろいろあるって、旅館の人が言ってたので、一通り巡って来たいと思います」
「じゃあ、私も一緒に行くわ。小学生が一人じゃ危ないわ」
　慌てて言うと、深夜子は荷物を開けてお風呂セットを取り出し始めた。
　翼は少し驚いた顔になったが、黙って彼女が用意するのを待つ。
「お待たせ。じゃあ、行きましょうか」
　用意を終えた深夜子が言って立ち上がると、翼は笑顔でうなずいた。そのまま、二人で肩を並べて、部屋を出て行く。
　それを見送り、冬華が桜をふり返った。
「私たちは、どうします？」
「温泉にも入りたいが……途中で見た、紅葉が綺麗だったから、少し外を歩いてみたいな」
　問われて、桜が答える。
「そうですね。……じゃあ、少し外を散策してから、温泉に入りましょうか」
　冬華もうなずき、常闇へと視線を巡らせた。
「常闇さんも、一緒にどうですか？」
「あ、はい。……ご一緒させていただけるなら」
　常闇もうなずく。
　こうして三人は、外を散策するため、部屋をあとにした。