＜鈴島海賊の秘宝III＞海へ｜リアクション

＜鈴島海賊の秘宝III＞海へ

●船内探索の時間よ・その２

　一方、こちらは探検部の面々。
　部長の龍目豪以下、北原みゆき、後木真央が探しているのは大砲である。
「殴打武器と重さで叩き斬る武器は持ち込んだけど、やはりメインは砲だと思うのだ」
　陸上部のＴシャツの上に学校指定のジャージを着たいつも通りの真央がいつも以上に瞳を輝かせて力説する。
「海賊船なんだから大砲とか捕鯨砲とか大型弩砲とかないのだ？　平頭銛はないにしても海賊船ならその程度の武装あっていいと思うのだ」

「大型設置武器は浪漫武器～！」

『オッパイ！　オッパイ！』
　青いオウムが、みんなの代わりに真央に大いに賛同した……ように見えた。
　みゆきは豪をちらっと見る。豪は笑っていた。みゆきは耳まで赤くなった。この青いオウムはみゆきと仲が良いのだが、あれこれあってオッパイしか言わなくなってしまったのだ。
「おっぱいおっぱいって何でこんな言葉吹き込んだのよもう、バカ！　修くんもやっていたけど、いい加減おっぱい以外の言葉を吹き込もう。ムカシムカシアルトコロニオジイサントオバアサンガ……」
　目が据わったみゆきの姿に、豪はまた笑った。彼の笑い方が雲一つない真夏の空みたいにカラリとしたものだったので、みゆきも思わずつられて笑った。
「北原、オウムの名まえは決まったのか？」
「あ、うん。フリントにしたの」
「フリントか。いい名前だな！」

　そのとき、船倉の片隅に積まれた布の山を片っ端から捲っていた真央が大声をあげた。
「あったあああァァァ！！！」
　小ぶりではあるが、それは間違うことなき大砲であった。火薬庫で砲弾も見つけると、いよいよ真央は高ぶってきた。
「砲門はどこなのだ！？　ないなら甲板に運ぶのだ！」
　紅梟号に砲門らしきものはなかった。大砲自体もこのひとつだけだ。そこで真央たちはこの大砲を甲板に運ぶことにした。豪がろっこん＜軽いぜ！＞で楽々運んでくれたのは言うまでもない。

◇

　うっすらと夜明けの白さが海の端に広がりつつある。
　甲板に吹きつける風は徐々に生ぬるく、強くなってきていた。
　帆は風をいっぱいに孕み、船は速度を上げている。
　雨は、まだない。

「これでよし、と……」
　天野は甲板に油性ペンで彼のろっこん＜天邪鬼＞の発動に必要な魔法陣を描き終えたところだった。
　その向こうでは、尾鎌蛇那伊がひとり鍛錬をしている。
　呼吸を整え、気を練り上げて全身に巡らし、ゆっくりと体を動かして、攻撃、防御、歩法などを連続で繰り返す。いわゆる套路（とうろ）という中国武術の練習法だ。
　どんな状況にも飲まれない、蛇那伊らしい時間の過ごし方だ。

「天野ちゃん！　蛇那伊ちゃん！　手伝ってほしいのだー！」
　甲板に大砲を設置していた真央がふたりを呼んだ。台座に乗せ、試し打ちをしてみるつもりなのだ。
「大砲ってひとりじゃ撃てないのだ」
　真央が弾込めをし、みゆきが導火線を差し込むと、残りの男子はてことロープで大砲の位置を定める。
「着火するのだ、みんな飛びのいて耳を塞ぐのだ！」
　真央が導火線に火をつけるや、みんなは言われた通り飛びのいて耳を塞いだ。
　次の瞬間、激しい爆発が起こり、砲弾がどおんと上がると、波のまにまに白いしぶきを上げて落ちた。

　斜め後方を並走していたリ・ボーン号の見張り台から「こらーっ！」と喚き声がした。
　双眼鏡を手にした双葉仄が腕を振り上げて怒っている。反対側の舷でやれー！　とか　こっちの船に当たるだろうが！　とかなんとか言っているらしい。
「ごめんごめんなのだー！」
　真央はオーバーアクションで謝った。
　ともかく、砲が撃てるのはわかった。
　命中するかどうかはまた別の問題だが、それはそれ、そのときになってみて、だ。