【後始末もきちんとね】

「いやああああああー！！」
　スッケスケに透けまくった神野 マキナを前に、我に返った鴇波 羽衣の、暮れかけてきた空へと響く第一声でありました。
「ごごごごごごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいー！　あたし、恥ずかしくって良くわかんなくなっちゃって……！」
　ぺこぺこぺこり、周囲の面々にも平謝りな羽衣に、マキナはけれど、あっけらかんと笑います。
「あはは、気にしなくていいよ。それより、羽衣ちゃんもスケスケのぼろぼろだね……この後うちで、シャワーでも浴びてく？」
　きらりん、と男前な彼女に何だかどきりとしたものか、はたまた今さらながらに周囲の目が気になりだしたのでしょうか、羽衣はちょっぴり顔を赤らめながらに、こくりとうなずきました。
　国民的と言ってしまっても過言では無いお菓子、『なめこの山』と『つちのこの里』。その対立に端を発した争いは、参加者の全てをまんべんなくスケスケのヌルヌル、あるいはスタンプまみれにしたところで、
「……はて。エジソンよ、ワシら一体、何を張り合ってたんだったかのう」
「さあのう、アインシュタイン。ともかくじゃ……ワシもう疲れた」
　結局のところ、なめこもつちのこも、見回してみれば両者のスタンプは、半々くらい。事の発端であるふたりがヘタりこんでしまったのもあって、ようやくながらに、終着の時を迎えようとしておりました。
「いやぁ、良い光景じゃのう！　長生きはするもんじゃな、ふぁっふぁっふぁ」
　ほくほく顔のコペルニクスさんへ、アインシュタインさんとエジソンさんは黙ってこくり、ひとつうなずき合いまして。どぱぱぱん！　スタンプ銃をひとしきりぶっぱなして黙らせたところで、御剣 刀が、
「ほら、じいさんたち。これ以上騒ぎが大きくなる前に、ここらで終わりにしておくぞ。公園内の後片付けもしておかないとな」
「掃除なら、ボクたちも手伝うよー！」
　桜庭 円も申し出れば、ふむ。と顔を見合わせまして、
「ま、そうじゃの。『なめこ』も『つちのこ』も、どっちも美味しく食べれば良かろ。のうエジソン」
「何ぞ癪じゃが、仕方があるまいの。片付けるとするか……あたたたた、腰がッ」
「お前若返ったのと違うんか？」
　とまぁそんなわけで、汚してしまった公園の中を、全員で。どこかから調達してきた雑巾やらモップやらを手に、お掃除開始！
　気付けば皆さんスゴイ肌色面積、みんながみんなスケヌルでスタンプまみれなもので、その場の誰もがもはや一周回って、羞恥心もマヒしつつありましたけれど。深倉 理紗子は、はあっと大きなため息ひとつ、
「こんな目に会った上に、どうしてわたし、片づけまでさせられてるのかしら……」
　ついつい愚痴をこぼします。
　もっとも、サバゲー好きの日暮 ねむるや、ちびっ子へ若返り中の神薙 焔などは、どこか満足そうに、
「まぁ、使う銃はちょっと変り種だったけど。こういう場所で、おおっぴらにやれる機会は貴重だからね」
「そうね。まー、それなりにたのちめたわよ？　……スケスケぢゅうは、あとでちゃーんと、しょぶんしちゃうけどね！」
「あら、それは残念ね？」
　ブリジット・アーチャーは、くるるるるん！　両手の指に引っ掛けた二丁拳銃を、西部劇の凄腕ガンマンさながらにくるくると回してから、
「これ、すごく面白いのに。ねっ」
　しゅたむ！　っとホルスターへ収めるフリ、お見事なガンプレイを決めました。



　概ね、園内の汚れを繕い終わり、綺麗になったあたりで……ぱっ。銃や弾へ及ぼしていた神魂の影響が散ってしまったのでしょうか、スケスケだった皆さんの服が戻り、
「ああ、良かった……やっと戻ったわ」
　公園内で拾った大きな葉っぱで、どうにかあらぬ部分を隠すという苦労を強いられていた十朱 此方も、ほっと一安心。
　若返っていた焔やエジソンさんの姿も元へと戻り、
「……はっ！？　俺、何してたんだっけ……何か、ヒーローにあるまじきことをしていたような……！」
　北 影太郎の酔いも、すっかり醒めたようです……そうした現象を、自分たちの技術によるものと信じて疑わない少年科学団は、はて？　と首を捻ったりしておりましたけれど。
　そんな彼らへ、桜庭 弓弦、三宅 葉月が差し出しましたのは、
「さ、おじいさんたち。仲直りの印に、一緒にお菓子、食べましょ？」
「どちらも、美味しいものね。わざわざ争い合うことも無いわ」
　『なめこの山』と、『つちのこの里』！
　葉月はもとより、エジソンさんに強引に陣営に引き込まれてしまっただけで、どちらがお好み……ということも無いのです。
　弓弦はつちのこ派ではありましたけれど、あえて諍いを広げたいという気はもちろん無く、ましてや妹の円とも別れて戦うなんてことを、望んでいるわけも無く。
　姉妹は仲良く、円はつちのこの里を、弓弦はなめこの山を、ぱくりっ！　と頬張りながらに笑顔を浮かべまして、
「「どっちも美味しいけど、やっぱり」」
「なめこが一番だよね！」
「つちのこが美味しいわよね～」
　……ぴくりっ。瞬間、動きの止まる仲良し姉妹。
　漂いだした、何だかミョーな雰囲気に……今度は八神 修が、科学団の面々へと、こんなことを言うのです。
「そうそう。お菓子に合う飲み物というのも、色々あるな。『紅茶』か、『珈琲』か、あるいは『日本茶』か……」
「そりゃあ、お主。紅茶じゃろ？」
「いやいや、そこは珈琲じゃろが」
「うんにゃ、日本茶が一番じゃな」
　……ぴくぴく、ぴくりっ。おじいさんたちの動きも、ぴたりと止まりまして。
　すかさず声を上げる、屋敷野 梢！
「おっとー！　第二ラウンドですか？　行っちゃいますかー？」
「やはり決着をつけるというなら、相手になるぞ……？」
　ゆらりと立ち上がった、鷹城 空！
「おいっ、いい加減にしろよなー！？　せっかく元に戻ったんだからさぁ！」
「うーん。人は争いを止められないものなのかなぁ……悲しいねぃ、春彦君」
「いいからお前も止めろって、呉井ー！！」
　悲劇を繰り返してなるかと、慌てて仲裁に入る楢木 春彦、どこかのんびりとしながらも付き合いの良い呉井 陽太。
　再び騒ぎ出した一同を眺めまして、三夜 架月は、
「八神さん……わざと吹っかけたでしょー？」
「ふふ。さあてな？」
　悪びれず、子犬のカーキーくんを撫でながらににやり、笑った修へ。架月もやっぱり、
「まぁ、僕は面白ければ、どっちでも良いけどねー。ほんと、八神さんって僕に似てるなぁ♪」
　にぱ、と楽しげな笑みを浮かべました。



　その日の夜。
　いつものようにネコ生放送中の檜扇 舞華は、真っ二つに別れた視聴者アンケートの結果を眺めて、
「ふむふむ。やっぱり皆さん、五分五分ってところみたいですねー」
　テーマはもちろん、『なめこか？　つちのこか？』であります。見れば寄せられたコメントの中でも、両派それぞれに、ずいぶんと紛糾している様子。
　とはいえ、舞華は語ります。すなわち、
「争いを収めるためには、どうしたら良いか？　ひとつは、『共通の敵を作る』こと。でも他に、こんな方法もありますよね……うちのご主人が仰ってたんですが、つまりは、こうしてしまえばいいわけですよ」
　取り出したるは、『なめこの山』と『つちのこの里』を一箱ずつ。ぱか、ぱかっと蓋を開けまして、舞華はそれらをひとつのお皿の中へと目がけて……ざらららら！
　いっしょくたに混ざり合った、なめこ＆つちのこ！
「ほら、平和な世界が生まれました」
　仲良くころんと並んだふたつのお菓子に、舞華が満足そうに笑えば、視聴者からも、おおー……なんて、感嘆の声が寄せられたということです。