ネコ島復興記～リバイバルターン～｜リアクション

ネコ島復興記～リバイバルターン～

●シーサイド攻略　part1
担当：恵御納夏朝、龍目豪、椿美咲紀、八神修
　　　如月庚、北原みゆき、黒マグロ、鷹城空、日暮ねむる

「やはりあったか」
　墓地からの坂を下ると駐車場がある。修の想像通り、そこには農業用のトラクターが捨て置かれていた。サンマ人の乗るもののせいか、座席空間は縦長だ。
「キーもある。けど、燃料が少ないね」
「目的地まで保てばいいさ」
　助手席に乗った夏朝にそう返し、修がハンドルを握る。残る七人も荷台に乗った。
「それより、君は誰だ？」

「どこに隠れてたんだ？」
　走り出した車に気づき現れたゾンマの数は、豪が思わずそう言うほどだった。車体で弾く度に振動が襲ってくる。ねむるがライフルで障害となる個体を狙撃し、空がイエローデビルで転倒させる。
「撃ちます！」
　花を手に、美咲紀がボウガンを構えた。魔法で装填要らずの矢が次々と吐き出された。
「腐ったサンマは処分！　倒れるがいい、干しサンマになりそこなった産業廃棄物どもめ！」
　彼女の口からそんな言葉もハキダサレた。
　三重県南部は干しサンマが美味しく、そこで育った彼女は腐ったサンマは許せないようで。
「よく言った嬢ちゃん！」
　口調か内容かに感心したのか、マグロが喝采をあげた。
「携帯は使えないようだな」
　庚が機能しない端末をしまう。
「リッカルドから聞いたが、無線機があるらしい。道中見つけられたらいいがな」
「そうだね。大通りにお店があればいいけど……」
　返事するみゆきの声は、弱い。
（本当に私なんかで役に立てるのかな）
　ゾンマといい、現状でのろっこんの使いづらさといい、考えるほど否定的なビジョンが出てくる。自分でも気づかずにため息をつく。
　車が左折した。信号まで走れば、ねずの湯だ。

「誰、か……なぜそんなことを聞くのかな？」
「君の言動は、普段の恵御納のものとは違う」
　修の言葉に、夏朝――ではない誰かはしばし沈黙した。
（隠し通すのは難しい…正直に名乗るしかないな）
「恵御納夏朝…の別人格、【夏夜】だよ」
　この世界に来るたび『夏朝』の意識はひどく希薄になる。防衛本能のように、内にある冷徹な気性が顕在化したのが彼女だった。
「そうだったのか」
「……意外と、驚かないね」
「結局、君が恵御納ということに変わりはないだろ」
　あっさりとした修の笑顔に、『夏夜』は拍子抜けしたまま視線を彷徨わせる。ひどく落ち着かなかった……受け入れられたことが。
　彷徨う瞳が信号を捉えた。ゾンマの群れが交差点にたむろしている。
「多いな。手伝ってもらえるか？」
「分かった……ありがとう」
　最後をぼそりと呟いて、窓を開けた彼女の口元に、微笑が乗った。

　交差点に突っ込んだトラクターは、しかしタイヤに巻き込んだゾンマにスリップした。制御が効かないまま、通りの店に突撃していく。
「伏せろ！」
　豪が叫ぶと同時に荷台の全員に覆いかぶさる。直後、衝撃と破壊音が襲ってきた。
「中々刺激的なドライブだ……全員無事か？」
　庚が立ち上がる。ねむるが頷いて、周囲を見た。「剣に盾、生活用品。ぶき……雑貨屋？　ですかね」
「シュー君、大丈夫ですか？」
　美咲紀がドアを開けると、修がエアバックに挟まれながら出てきた。
「直前で壁を分解したから、大丈夫だ」
「……邪魔」
　反対の扉からは、夏朝が剣でエアバックを切り裂いて出てきた。
「豪先輩、ケガしてます！」
「ん？　ああ、ガラスで切ったみたいだな……誰か治せたりするか？」
「お任せなのです！」
　美咲紀がろっこんを発動し、豪の傷がふさがっていく。そこで店の奥から空が現れた。様子を見に行っていたらしい。
「裏から行けそうだ。敵もいないから楽だと思う」
「ここで別行動だな。少し店の中も見るか」
　庚や変電所メンバーが奥に向かう。マグロが豪に振り返った。
「少年、ガッツはいいが無理するなよ。やられんのは年食ったやつが先だ」
「気を付けます」
　拳を合わせる豪とマグロ。みゆきは不安げに言った。
「お願い。豪先輩、無茶だけはしないで。そうでないと私……」
「魔法なんてものもあるし、まだ大丈夫だ。北原も気を付けて行けよ。大事な物とか落としたら、持って戻れるか分からないからな」
「大事な物、ですか？」
　ねずの湯メンバーが破壊した穴から出ていく。戦闘の音がすぐに聞こえてきた。みゆきは奥に向かいながら、ふと、ブローチを見やった。誕生日にある人からもらったものだ。その人に、折れない心を褒めてもらった。
「そうだ……私にくじけてる暇はないんだ」
　強い口調でそう言ったみゆきは、店の中であるものを探し始めた。