「……どうしてこうなった？」
　鳳翔 皐月ことイアイドーニンジャのフェニックスは、目を細めたまま町役場近くの民家の屋根の上からカオスを眺めていた。
「ったく、こんなとこは早くサヨナラするためにも、赤毛の乳デカエアヘッド女をミンチにしねえと……」
　だが、その前にやらねばいけないことがあった。
「よぉ、殺気がダダ漏れだぜ？」
　背後から飛びかかってきた人物のアンブッシュをたじろぐことなく軽くいなしたフェニックス。
　なんというニンジャ感知力だろうか！
「グルルルルル……」
　その人物は狂気に飲まれていた。
　稲場 舞ことアルテミス・ルナと、ブラジャーに憑依したブリジット・アーチャーだ。
　そんな相手に、フェニックスは律儀にお辞儀をした。
　これから殺す相手にでさえ、ニンジャは名乗りを果たす奥ゆかしさを持っているのだ。
「ドーモ、魔法少女＝サン。イアイドーニンジャのフェニックスです」
「ライジングアロー！」
　まさかの行動！
　ルナはフェニックスの挨拶中に攻撃！
　３本の雷の矢がフェニックス目掛けて同時に放たれた！
「イヤァーッ！」
　だがフェニクスは神速の居合から繰り出された剣圧で雷の矢を弾き飛ばした。
　イアイドータツジンスキルの彼女だからこそやってのけたカウンター動作なのだ。
「……挨拶なしか。なるほど、ポテトヘッドは挨拶の神聖さも分からねえのか」
　舌打ちをしたあと、フェニックスは怒りを吐き捨てる。
「つーか、なんだそのデカい乳は？　見せつけてんじゃねえよ！」
　ルナの胸元の大きさに苛立ったフェニックスが怒鳴る。
　だが、そんな威圧をものともしないルナは雷光の弓矢を生成して構える。
「ニンジャは殺す。カボチャも殺す！」
『舞、ダークサイドへ落ちたら戻れなくなるわ！』
　ブラジャーが警告するが、ルナの言葉は聞き入れられない。
「胸が平坦なニンジャなんかに、今の私が負けるわけがありません！」
「ぬかせ、このデカチチ！」
　フェニックスが再び構える。
　と、その時、彼女の背後からカボチャの大群がルナ目掛けて突撃を開始した。
＜フェニックス、加勢するぜ！＞
　町役場から指示を出すヤンキーニンジャの新江のコトダマだ。
＜カボチャたちで弱らせたあと、あんたがトドメをさしてくれ＞
「年上に指図すんじゃねえよ！」
　しかし、これは好機だ。
　相手は１人（とブラジャー）。
　この物量で攻めれば、きっと圧倒できる……！
　その時、ルナの体に黄金の光がほとばしる。
「おい、なんかやべえぞ。カボチャたちを引かせろ！」
　新江にコトダマを送るフェニックス。
　だが、新江はそれを無視してカボチャたちに突撃命令を下してしまった。
＜魔法少女を押し倒せ！　カボチャで圧殺してやる！＞
　ルナに殺到するカボチャたち。
　あっという間にルナはカボチャたちの下敷きになってしまった。
＜なんだよ、何もないじゃねぇか＞
　せせら笑う新江のコトダマ。
　次の瞬間、ルナの周囲に極太のプラズマの柱が立ち上るではないか！
「全部纏めて吹っ飛びなさい！　『ライジングブラスト』！」
　ルナの持てる魔力をフル活用することで、電撃の出力を極限まで引き上げる彼女の最大必殺魔法である！
「「カボボボボボボボボー！？」」
　何十、何百もいたカボチャたちが、一瞬で炭化してしまうほどの火力と射程を誇るこの魔法。
　フェニックスも当然巻き込まれてしまった。
「アバババババババ！」
　フェニックスは黄金の電撃に身を焼かれて瀕死に追い込まれる。
　そこへ死神めいた暗黒オーラを噴出させながら、ルナはフェニックスを足蹴にした。
「ふふ、どうしました？　やはり忍者はこそこそしてないと何もできませんか？」
「アバッ……！　てめえ……死んだぞ……！」
　怒りに満ち溢れた眼差しを向けるフェニックスを文字通り見下すルナ。
「そんな体で、一体何ができると……」
「イヤァーッ！！」
　鍔鳴り！
　肉眼では捉えきれないほどの超スピードで繰り出されたイアイドーは、ルナの体の正中線を捉えた。
　……かに見えたが、ルナは間一髪、後退することで股下から真っ二つになるのを回避できた。
「ああ、不意打ちですか。でも残念。避けちゃいました」
　マジカル動体視力も侮れないのだ。
　しかし、ルナはウカツだった。
　この戦い、自分だけが戦っているわけではないということを。
『どうやら……ここまでのようね……』
　ルナの体は無傷だったが、衣装の正面がパックリ避けていた。
　それは衣服のみならず、下着までも切り裂いていたのだ。
　下着が避けたということは、ブラジャーも真っ二つになっているということ！
『Goodbye！』
　ルナのブラジャーが地面にはらりと落ちると、轟音とともに爆発四散！
「ブリジットさん！？　あなたがいないと、私の胸元は……」
　ルナは深い悲しみに覆われた。
　そしてその胸元は文字通りスカスカになっていた。
　ブリジットのサポート（意味深）がなくなったからだ。
　フェニックスは確信した。
「なんだ、私の仲間か……」
　ルナに注がれる憐憫の眼差し。
　それに対して彼女は逆上！
「お前も私を笑うのかあああああっ！」
　怒りによって、ルナの魔力が反転。
　自身の魔女化した姿（餅が入った臼に手足が生えた姿をしたナニカ）を背後に顕在化！
「いけっ！　ラァイスクーフェン・フラウ！」
　杵のラッシュ攻撃がフェニックスを押し潰す！
「オォォォォモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチモチィィィィーッ！」
　おお、落神よ！　見てますか！
　地表に降り注ぐ流星群が如き杵のラッシュ攻撃は、フェニックスの神速のイアイドーをもってしても太刀打ちできずに圧殺してしまう！
　そして、今まさにフェニックスの体が真っ赤に燃え上がり……。
「サヨナラッ！」
　真っ赤な炎とともに、その体を爆発させてしまった。
「……ブリジット、いえ、ブラジットさん。勝ちましたよ」
　ルナは粉々になった自分のブラジャーをかき集めて涙をこぼした。
「ブラジットさん、ラスボスと戦う私を見守っててください！」
　大空たなびくブラジャーの幻影に、ルナは胸を熱くさせていた。
「あれ……？　熱いだけじゃなく、痛い……！？」
　ルナがその平坦な胸元に目を向けると、白銀に輝く刃が心臓から“生えていた”のだ。
　吐血！　これは暗殺！
　背後には、爆散したはずのフェニックス！
「ドーモ、フェニックスです。さっき爆発したのは身代わりだ」
　ずるり、と血に濡れた刃を引き抜く。
　まるで電池が切れたように動きを止めたルナ。
　素手のその瞳孔に生気は宿っていなかった。
「まず１人っと……。つーかニンジャ少なすぎだろコレ。だるいけど私が頑張るしかねえな……」
　フェニックスは制服のポケットから『実際命の水な』ラベルが貼られた琥珀色の聖水を飲んで、掲げた杯を地面に叩き付け割った。
「往くぜ」
「殺るか」
「ぶった斬る」
「辻斬りだ」
「真っ二つにしてやるよ」
　フェニックスが歩を進めるたびに、ミガワリジュツで自身の身代わりを量産していく。
　まさにワンマンアーミー（１人だけとは言っていない）状態。
　身代わりのフェニックスたちは魔法少女たちを狩りに、本体は町役場へ潜入。
　目的を遂げるべく彼女たちは走る！



＜ブリジット・アーチャー：脱落＞
＜稲場 舞：脱落＞