一方、御剣ハーレムから離脱した稲場 舞ことアルテミス・ルナとブラジャーの妖精ブリジット・アーチャー（レモンパッドIN）は、明らかに痛々しいフリフリな感じの『魔法少女マリさんじゅうにさい』とともに町役場へ向かっていた。
　ちなみに、マリさんじゅうにさい、までが名前である。
　設定年齢は12歳。
　でも、なんだかやさぐれた大人の女の雰囲気が漂うから呼ぶときは“さん”付けをしよう！
　決して実年齢32歳というわけではないのだ、きっとそうだ。
　小野田 万里という独身女性でもないのだ！
「それにしても忍者が現れませんね……。カボチャばかりです」
　ルナが周囲を警戒しながらカボチャを蹴散らした。
「いーんじゃない？　おかげで最短距離で町役場へ行けるし。あ、でも仲間を探してからにしよっか？　特に美少年希望。女装美少年だったら最高だよね、ペロペロするよね」
　マリ（32）の発言はとてもいかがわしかった。
　ルナの冷ややかな視線が刺さる！
「だってぇ！　現実世界じゃ誰も手を伸ばそうとしてくれないし、こういう不思議空間にいるときくらい、魔法少女（♂）を探して片っ端から偽装百合百合するのだぁ！　もしくは美少年とフュージュン！」
　マリ（32）が欲望をダダ漏れにすると、ルナのブラジャーが喋った。
　いわゆる、ど根性ブラジャーのブリジット・アーチャーならぬ、ブラジット・アーチャーである。
『それじゃ、あの目の前の男子はあなたのお眼鏡にかなうかしら？』
　マリ（32）は正面を見遣ると、そこには、マスター握とリア・タワー（臭気封印中）が立ち塞がっていた。
「おい、そこの２人！」
　マスター握は開口一番、高らかに告げた。
「揉　ま　せ　る　ん　だ　！」
　乳揉不敗は回りくどいことは好まなかった。
　目の前におっぱいがあるのならば！
　全ては揉んでから考えるのだ！
「なんだ、同類か。美少年がよかったー」
　マリ（32）は肩を落とした。
「フッ、同類……か。だが俺にはわかるぜ、お前の正体が！」
　マスター握はずびしっとマリ（32）へ指を差した。
「そもそも、缶ビール片手にうろつく魔法少女なんていない！　貴様、忍者だな！？」

　マリ（32）が持っていた猫生一番搾りビール（350ml）に、マスター握は目ざとくツッコミを入れた。
　魔法少女は愛と夢とアニメギーグたちのオフセで成り立つ存在。
　間違ってもビールを飲みながら焼きスルメを喰むようなことはしない！
「な、何を言ってるんですか！？　マリさんじゅにさいは魔法少女です！」
　ルナはマリ（32）を必死に庇う。
「マリさんじゅうにさい、あなたはれっきとした魔法少女ですよね！？」
　ルナが質問を投げるが、その回答は返ってこなかった。
　マスター握は不敵に笑う。
「名も知らぬ魔法少女よ。お前はすでに負けている。振り返って、仲間の目を見てみな？」
『なんですって……？』
　ブラジットの驚きの声は、すぐに悲鳴に変わった。
　後ろに居たのは、ビール缶製メンポにババシャツ・オンミツクロースを身にまとったニンジャだったからだ！
『グワー！？』
　ブラジットのソウルがニンジャの存在に怯える！
「ブラジットさん！　大丈夫です、私がいます！」
　しかし、魔法少女のルナの精神は無傷！
　そしてブラジャーに魔力を注入すると、ブラジットも冷静さを取り戻した。
『ハァ……ハァ……、ありがとう、舞。魔力のおかげでニンジャへの恐怖心が取り払われたわ』
　改めてニンジャと対峙するルナとブラジット。
　ここでようやくニンジャ（独身♀・32）が挨拶をした。
「ドーモ、ビショウネンハンターです。……くっ、あたしがニンジャとバレるとは！？」
　真の姿を表した狩人（32）はうろたえる。
　だが、彼女はマスター握とアイコンタクトを求めた。
　それに彼もすぐさま応じた。
＜取引よ。美少年を所望する＞
＜俺はおっぱいを所望する＞
＜承知した。隣の美少女をヤミウチして君に提供しよう＞
＜俺は何をすればいい？＞
＜代わりに美少年狩りと凶悪なオカマの撃破に協力してくれたまえ＞
＜凶悪なオカマってなんだよ！？＞
＜あの……魔法少女の人、逃げていきますけど……＞
　リアの魔力によるアイコンタクトへの介入だ。
　だが、これによりルナとブラジットの逃走を素早く気付くことができた。
「逃がしはしない！　ドリャー！」
　狩人（32）は伸縮性の富んだ二股の布地を鎖鎌のようにルナへ投げ付けた。
　すると布地が自然と彼女の体に絡みついて締め上げる！
「喪女忍法『体型補正ストッキング捕縛術』！」
「きゃぁッ！？　着圧がすごい！！」
　巻き付いたストッキングに足を取られたルナ。
「でもこのまま大人しくなんてしていませんよ！」
　ルナは雷電の弓矢をつがえると、狩人（32）とマスター握へ乱射！
「ライジングアローの乱射を喰らいなさい！」
　稲妻の矢が狩人（32）とマスター握へ向かって乱れ飛ぶ！
　しかし、狙われたニンジャと変態は間一髪のところで緊急回避！
　後ろに控えていたリア・タワーに全弾被弾した。
「きゃあーっ！　……やっぱり、こういう目に遭うんですね……うぅ……」
　完全にとばっちりを受けたリアは焦げ臭くなった。
　発酵（薄幸）の魔法少女の宿命であった。
「ドリャー！」
　狩人（32）がストッキングを引っ張ると、ルナの体がたぐり寄せられた。
　カメレオンが獲物を口内に引き寄せるがごとく、前方へ吹っ飛ぶルナの先にはマスター握の両手が！
「カモン、おっぱい！」
　受け止め体制は万全のようだ。
「安心しな、少女。俺の愛は無償。お前に力を与えたいだけなんだ！　だから俺におっぱいを委ねるだけで良い。そうすればお前はもっと、輝けるんだ！」
　そして彼の両手に、すっぽりとルナの両乳房が収まってしまった。
　すぐさま始まる高速搾乳の指使い！
「ンアーンッ！？　こんな状況で何をするんですかあなたは！」
　魔力の急激な高ぶりにルナの体が悲鳴を上げた。
「だめ、だめっ！　おかしくなっちゃいます！！」
『舞、このままだと魔力が抑えきれないわ！』
　ブラジットもルナの身体の異変に危険信号を発した。
「スゲェ反応だぜ！　魔力感度が敏感すぎるんだ！」
　マスター握のテクニックは、ルナのみならず、ブラジャーの妖精であるブラジットの魔力も高めていた。
　つまり、２人分の魔力が１人の体に注がれている状態なのだ。
　加減を間違えるとゴー・トゥー・ヘブン・ステイタスで命に関わる！
　アブナイ！
　だが、マスター握は違和感に気が付いた。
「……こ、こいつは……」
　思わず胸から手を離す彼は叫んだ。
「お前……PADを入れているな！？　偽乳工作員か！？」
　マスター握の手元から伝わった硬度は、明らかにリアルおっぱいのそれとは異質のものであった。
　彼はブラジャーに宿った魔法少女のソウルの存在――ブラジットのことを知る由もなかった。
　ブラジットはルナのおっぱいを守るべく、ブラのパッドを星条旗シールドへ変換して防御したのだ。
　同時にバストラインを強調させて豊胸効果を与えていた。
　ソウル化しても魔法少女の矜持を忘れていなかったのだ！
「美少年がいないのなら長居は無用！　逃げるわよー！」
　狩人（32）はマスター握と一緒に逃走！
「ま、待ってください……！」
　リアも涙目で逃走！
　その場に取り残されたルナとブラジット。
「フフ……フフフ……」
　ルナの瞳から光が消えていく。
「ユルサナイ……ユルサナイ……！！」
　血の涙を流しながら、ルナは立ち上がる。
『あ……ああ……！』
　ブラジットは恐怖した。
　この瞬間、虐殺の魔王が誕生してしまったからだ。
「全員、マトメテ、フキトバス……！！」
　暗黒魔力を放出させるルナの背後に、両手両足が生えた臼の幻影が現れる。
　ルナは新たなる魔法“傍らに立つ者”を習得した。
『まずいわね、“傍らに立つ者”は魔力消費が大きすぎるわ。このまま発動し続けていたら、舞の魔力は枯渇する……！　お願い、今すぐ発動を中止して！　舞の体がもたないわ！』
　焦るブラジット。
　しかし、ブラジャーに宿った自身では、せいぜいルナの魔力制御を司るくらいしかできない。
「ペッタンコォー！！」
　暗黒魔力を爆発させると、町役場方面へと一気に飛翔していくルナ。
『まさか舞、それって自分の胸とオモチをかけて……！？』
「ペッタンコォー！！」
　……暴虐の時は、刻一刻と近付いていた。