悠久の時の彼方へ～牢獄の聖女｜リアクション

悠久の時の彼方へ～牢獄の聖女

Trois.

　ルーアンの町に、夕闇が迫ってきていた。
「夜に目を慣らしておかないとな」
「明かりは期待できないものね」
　御剣刀と尾鎌蛇那伊が言葉を交わす。
　鈴野海斗はポニーテールの髪を下ろし、フードをかぶって女の物乞いに化けた。ナタリア・シシロヴァはエアガンの装填を済ませている。それに、見張りや囮役を演ずるニコ・ライニオと吉祥寺黒子が、ジャンヌ救出班の面々だった。
　日は完全に落ち、互いの顔がわからないくらいに暗くなってきた。6人は怪しまれないよう固まらず、適度に散って物陰に身を隠す。

　門の所には番兵が2人。彼らのもとに最初に近づいたのは、物乞いに化けた海斗だ。
「……なんだ、何もやらんぞ」
　番兵が海斗に注意を引かれた瞬間。海斗のハンドサインは「作戦決行」の形になった。
　それを確認すると同時に、ナタリアがエアガンの引き金を引いた。狙うは、甲冑から露出した顔の部分。弾は見事に兵士の眉間に当たる。彼女のろっこん〈アゴーニ〉の効果により、撃たれた兵士は実弾を浴びたのと同じダメージを受けたものと錯覚した。何が起こったかもわからないまま、兵士は意識を失って崩れ落ちた。
「なっ……」
　もう片方の兵士が驚くのも束の間、海斗が兵士の懐に飛び込み、音もなく鉄兜のスリットにミセリコルデを突き立てる。
「黙るべ」
　押し殺した声で言われ、兵士は固まるほかなかった。
「自分の置かれた状況はわかるか？女の格好した男すら見破れねえ上に殺されたなんて、名誉も糞もねえべ……気づいたら殴り倒されてて、何も覚えてねえと言った方が利口だべな？」
　怯えた目で頷く兵士。
「わかったら、鉄兜脱ぐべ。殺しゃしねえ」
　兵士が従うと、海斗はすぐさま棍棒で相手の頭部を思い切り殴り、昏倒させる。右足のグリーブだけは失敬しておく。
　門のところにいる2人の番兵が片付いたのを確認し、ナタリアは銃を下ろした。もう１人が暴れるようなら躊躇なく頭を撃ち抜くつもりだったが、その心配はなかった。
「ふぅ……」
　彼女は手のエアガンを一瞥して、心底嫌そうにため息をついた。なにせ、手にしているのは憎きアメリカのモデルなのだから。