「―――あれ?」
ふと我に返った
美崎 操は、思わずあたりを見渡した。
「ここ、寝子島じゃないよな……」
一面に広がる草原と、点在する緑の森。島にはこんな広々とした景色はない。遠目には、城壁に囲まれた大きな町と、軍隊らしき人の群れが見える。
「それからこの格好……一体何なんだ?」
操はなぜか、洋風の甲冑を着込んでいた。立派な洋館の隅に飾ってあり、夜になると勝手に動き出したりしていそうな、アレだ。
「……この事態については、僕から説明しよう」
背後から声がした。振り向くと、灰色のシャツをまとい、眼鏡をかけた少年がいる。明らかに現代日本人だ。なんだ、普通そうな人もいるじゃないか。困惑していた操の気分は少し落ち着いた。
「今君がいるのは1429年5月7日早朝のフランス。あそこに見える町は、イングランド軍に包囲されたオルレアンだ」
「タイムスリップ!? それも外国って……そりゃ大変だ。で、あんた誰?」
「僕の名は築地 哲。早いうちに巻き込まれた人を見つけられてよかった」
「ふうん。で、築地。つまり俺は、中世ヨーロッパにいるわけ? 何かの神魂かろっこんの影響かい?」
「その認識でだいたいあっている。過去に干渉する異分子の影響で、複数人の現代人がここにきてしまった。『あの人』のせいだ。歴史をゆがめようとする『あの人』の干渉のおかげで、再び時空にひびが入ってしまったらしい」
「う~ん……」
何やら難しい話をしているが、どうやら厄介ごとに巻き込まれてしまったらしい、ということは分かった。
「歴史がゆがむってどういうことだい?」
「この日、オルレアンの町を解放するためにフランスがイングランドと戦い、フランスが勝つ。『あの人』の干渉で勝敗が変わったりしたら」
「変わったりしたら?」
操の問いに、哲は静かに答えた。
「のちの歴史は大きく変わる。現代も影響を受ける。君も、家族も、友人もすべていなかったことになるかもしれない」
「―――!」
操は一番大切な人、兄のことを思い出した。彼がいなくなるなんて、絶対に―――
「止めないと」
「そう、君たち現代人に、何としても歴史が変わらないよう、協力を頼みたい」
「で、協力ってのはどういう風にしたらいいんだ?」
「詳しくはきちんと説明するが、ざっくりいうと『ある少女』に協力し、フランス軍を援護してほしい」
「少女、てえのは誰だい?」
「彼女は、神の声を聴いたという―――その名は……」
「待て!」
操はハッとして哲の言葉を遮った。
「俺は多分、その名前を知ってる―――その少女の名は、ジャンヌ・ダルクだ」
皆さまお久しぶりです、三城俊一です。
今回は、美崎 操さんにガイドにご登場いただきました。ありがとうございました。
前回シナリオ「悠久の時の彼方へ~決戦! 桶狭間」の続きですが、一話完結なので、前回シナリオに参加していなくても、前回リアクションを読まなくても大丈夫です。
さて、本シナリオの舞台は中世のフランス。フランス軍の一隊を率いるジャンヌ・ダルクを支援してオルレアンの町を解放するのが今回のミッションです。前回同様長いマスコメになりますが、ご容赦のほどを。
○背景・舞台
舞台は1429年5月7日のフランス、オルレアン。フランスは宿敵イングランドと百年戦争を戦っていますが、連戦連敗しており、窮地に陥っていました。そこに、「自分は神の声を聴いた」と語るジャンヌ・ダルクが現れ、フランス軍の命運は彼女に託されます。ジャンヌらフランス軍は、イングランドに包囲されたオルレアンの町に向かいます。オルレアン解放に成功したジャンヌは、これをきっかけに反撃をはじめ、フランスを勝利に導きます。
○どうして歴史は変わりそうなの?
オルレアンの城壁外にいるイングランド軍5000を撃退することが勝利条件。イングランドが築いた砦の近くの平野で英仏両軍は激突することになります。しかし、築地の説明によれば、歴史を歪めようとする何者かが謎の力を働かせたため、以下のような異常事態が発生しています。
①イングランド兵の強化。普通の兵士の1割増位に戦闘能力が上がっています。
・筋力が強化された歩兵
・瞬発力が強化された騎兵
・視力と集中力が強化された弓兵
の三種類に対処の必要あり。
築地曰く「桶狭間では今川義元一人を極端に強くする作戦で失敗したから、『あの人』は今回妖力を分散したようだ」とのことです。
②フランス軍総司令官ジャン・ド・デュノワの存在。彼は実績のないジャンヌ・ダルクが前線に出てくるのを疎ましく思い、援軍を断ち切ろうかと考えています。デュノワがジャンヌを見捨てると、ジャンヌの一隊は500ほどの戦力で敵中に取り残されます。
難物デュノワを翻意させないと、ゲームクリアは非常に困難になります。戦闘向きでないが頭脳・駆け引きに自信がある方はこちらのミッションへどうぞ。デュノワには築地の手引きで謁見できます。説得、脅し、色仕掛け等、なんでもいいので彼から援軍を引き出してください。なお、デュノワ自身も国への忠誠心は持っています。ただし、戦績のない一人の少女に指揮をとらせるという上層部の方針に強い不信感を持ってしまい、ジャンヌへの支援を渋っている模様です。
PCの描写は、イングランド軍との戦闘か、デュノワ司令官の説得のシーンとなります。ですが他にも、戦いに関連するアクションを書くと採用される可能性があります。例えばジャンヌに献策する、戦傷者を介抱するといったものが考えられます。
○装備
中世ヨーロッパ風の甲冑と盾が標準装備で、プラス何らかの武器を一つ持ち込むことができます。武器は中世ヨーロッパの時代に存在するものを指定できます。
例:剣、槍、洋弓、矛など。和風・中国風の武器は可、毒矢なども可。銃器は不可。
ちなみに、神魂の影響なのか言葉は通じ、自然にフランス軍に混ざることができます。
○NPC について
築地 哲(つきじ・てつ)。明らかに現代日本人の恰好なのに誰にも怪しまれることなく過去に出没し、PCに情報を与え、歴史を変えないための協力を要請してきます。時の権力者にすぐ取り入ることができるなど、謎の存在です。本人いわく「情報収集能力はあるが、戦闘力はない」らしいです。アクションで彼と関わることは必須ではありません。
なお、今回初めて「歴史を変えようとする何者か」の存在に言及しましたが、そちらのほうの正体はいかに……
○アクションについて
この世界は夢ではないので、戦いの中大怪我をする可能性もあります。慎重な行動をお願いします。ですが、神魂の影響でそのまま現代に戻れる可能性に賭けてもいいかもしれません。ろっこん発動を妨げる条件はありません。タイムスリップに巻き込まれた人は、半日程度で現代に戻れます。
それでは、ご参加お待ちしております。共に歴史を動かしましょう!