Search for lost books｜リアクション

Search for lost books

　「そこまで、ですよ」
　珪を連れ立って教室の扉を開いたのは　瑠歌。穏やかに警告の声を上げる。
　「げ！」
　「ひゃう！？」
　と、信彦と牡丹。
　「あ、朝海先輩、早川先生……」
　悠は助けが来たことに声を上げて、２人に駆け寄った。そうして２人の背中に隠れるようにして小さな声で謝罪をする。
　「す、すみません……。回収。できませんでした……」
　「強引に回収してトラブルになるよりはいいんじゃないかな？」
　珪は見方を変えるように悠をフォローする。
　「早川先生、あさみん！　これには深い理由があるんです！」
　流石にまずいと思ったのか信彦はクレジットカードを取り出しながら言いくるめようとする。

　（私は傍観者ですからー。悪いのはひこにゃんですからー）
　瑠歌たちが信彦に注目している隙に、こそこそと梢は窓側に近づく。
　そして目を瞑ってジャンプ。
　彼女のろっこん能力が発動して、梢は１匹の蝶となる。
　ひらひらと彼女は窓から逃げ出した。

　「若者の書籍離れが叫ばれる昨今！　俺は本に触れ合う若者の為に１つの可能性を提案しているだけなんです！　本は読むだけのものじゃないと！」
　信彦の説明する。
　「ですが、本は読む為の物ですよ。玩具ではありません」
　と、瑠歌。
　彼のろっこんは安心感を与えるものではあるが、説得できるとは限らない。
　「そこはほら！　俺はお金持ちなんで！　何とかします！」
　悠を言いくるめたときと同じようなことを信彦は言う。
　「なるほど。言いたいことはわかった。じゃ、八十八旗君と添木さんは反省文の提出ということで。あと１人いた気がするんだけど……」
　どんな意図があったとしてもやっていることは悪戯である。教師である珪が看過するわけもなかった。
　「わ、私もですかぁ～……！？」
　牡丹の悲鳴が上がる。

　ドミノは倒される前に回収されることになる。
　信彦が表現しようとしていた２つの花の花言葉は……。
　『愛の宣言』、『私はあなただけを見つめます』であった。

　星ヶ丘寮、弓弦原譲の部屋の前に立っていたのは、ろっこん能力で移動してきたアン・リアルであった。
　「何のようだ？」
　と、譲。神経質そうな瞳でアンを見る。
　「本を返してもらいに来たの、先生と図書委員が困ってる」
　本来、人見知りなアンではあるのだが、図書委員のお手伝いということもあって言うべき事は言えているようだった。
　「ああ……」
　ついに来たか、と譲は部屋から１冊の本を持って来る。
　「延滞してすまなかった」
　素直に謝る譲の言葉の端々にはどことなく寂しい思いが滲む。
　「好きなの？」
　アンが直截的に問いかける。
　「昔、ちょっとな……」
　言葉を濁しつつも彼の言葉には懐かしさと優しさがあった。
　「本が好きでも返さないとダメ。迷惑だから」
　容赦のないアンの言葉に譲は苦笑を漏らす。
　「そうだな。一度返してまた借りに行くことにする。俺が言えた義理じゃないが、この本を頼む」
　そう言って、譲はアンに『ねこといもうと』という絵本を手渡した。