Search for lost books｜リアクション

Search for lost books

　「で、出来た……！」
　思わず嬉しそうにコスプレ衣装を抱きしめるのは哀坂零葉。
　普段のクールそうな雰囲気と打って変わって、その表情や仕草は年相応の女子である。
　指先にはたくさんの絆創膏。
　掌にも細かい傷がたくさん。床には糸やら生地の端などが散らばっている。
　それは彼女の悪戦苦闘の証拠でもあった。
　「私にしては……よい出来かも……」
　自分のサイズに合わせて作ってはみたものの、不器用な零葉である。
　ちゃんと合っているか確認もしたい。何よりも初めて作った衣装を素直に着てみたいという気持ちが浮かんでくるのは当然であった。
　ばさばさと普段着を脱ぎ下着姿になる。控えめな胸以外は細身で均整のとれたスタイルである。
　出来上がったばかりのコスプレ衣装を彼女はゆっくりと着ていく。
　既製品とは違う布の感触に戸惑いながらも彼女は違う自分になっていく感覚にドキドキしていた。

　「なんだか、楽しい……」
　腰の位置で大きめのリボンになるように衣装を絞るように結び、髪はツインテール。
　上半身は長袖だが、ベルスリーブをさらに誇張したように袖口が広がっている。
　脚はくるぶし近くまであるロングスカートだが、中にはパニエが入れてありふわふわに膨らんでいる。
　出来栄えに満足している零葉であったが、１つだけ気になったことがある。
　「……やはり胸が余……い、いえ！　これはただ寸法を間違えただけで……っ！？」
　どうにも胸元が少し余るような感じであったのだ。他が零葉自身の体にフィットしているだけに落ち着かない。
　「で、でも、なんだか違う私みたいで、いいかも……」
　何かに目覚めたように普段の零葉には見られないような恍惚した笑みがこぼれる。
　鏡の前でくるくると回り、思わずモデルにしたキャラクターのポーズを決める。
　「せっかくだから化粧もしたほうがよいのかしら……」
　順調にコスプレにはまりつつある零葉だったが、そんな幸せの時間を何とも言えない表情で見守る視線があった。

　「あー……取り込み中すまないのだが。一応ノックはしたんだぞ」
　と、回収に来ていた青野海仔はドアを少しだけ開けて零葉に声をかける。
　「！？　と、図書委員会！　いつからそこに！」
　思わず借りたままのコスプレの制作資料を抱きしめて硬直する零葉。
　「ポーズを決めているところあたりからだ。ではなく、それは趣味か？　似合っていると思うが」
　海仔にしてもこんなパターンは想定外だったらしく、ためらいがちである。
　「あ、ありがとうございます。頑張って作ったんですよ……！　じゃなくて、趣味とか違いまして！　う、あ、ああぁぁぁぁぁ！」
　と、零葉は顔を真っ赤にしてコスプレ衣装のまま部屋の外へと飛び出そうとする。扉側には海仔がいるので、窓を開き……。

　ジャンプ。

　スカートが少し捲れ、零葉の太腿が露わになるも女子寮だったのが幸いする。
　無事に着地した零葉はそのまま恥ずかしさのあまり暴走するように走り去っていった。　

　「落ち着いてから取りに行くとするか……」
　海仔はそう言うと桜花寮の別の生徒の部屋へと向かった。

　奇しくもコスプレ衣装のキャラクターが部屋から飛び出すシーンと完全に一致していたと零葉が知るのは後日のことである。
　また、暫くの間、桜花寮の女子棟では『謎のコスプレ美少女現る』という噂が流れ、零葉は自分だと名乗り出ることはなかった。　