Search for lost books｜リアクション

Search for lost books

　「今日は何の本を読みましょう」
　本棚に沿って歩きながら呟くのは御鏡聖。寝子島神社で巫女の修行をしている少女である。サイドテールに結ばれた髪がふんわりと揺れる。彼女は比較的頻繁に図書室に出入りする生徒でもあった。
　まずは借りていた本を返そうと思っていたのだが、返却カウンターが混み合っていたので、彼女は読む本を先に探しているようだった。
　「貸出禁止の本でもいいんですけど」
　と、借りる予定の本をいくつか物色した後、貸出禁止のマークの入った本に目をつける。
　彼女の手元には、『寝子島印の手軽にできる晩御飯、洋食編』『神道と神社について』など、料理の本と神社関連の本が目に付く。
　「あ」
　彼女は本棚の最上段にある本に注目する。そこには『民俗学観点から見る寝子島の歴史と神話』と銘打たれた古ぼけた本があった。
　「ちょっと、位置が高いです……」
　周囲を見渡すも脚立は別の生徒が使っているらしく、彼女は頑張って背伸びをする。
　「うーん、あと少し……」
　左手を本棚の上のほうに引っ掛けて、つま先立ちをする。そうして右手でぐーっと伸ばす。ストレッチをしているような態勢になるも本には触れるが手に取れない。
　「もうちょっとなんですけど」
　と、彼女が精一杯頑張って手を伸ばしたところに、本がするりと浮かんで彼女の右手に収まる。
　「え、あれ？」
　彼女が首をかしげると、隣に司書教諭である早川珪が立っていた。
　「お探しの本はこちらでよかったかな？」
　と、珪。
　「あ。ありがとうございます」
　丁寧にお辞儀をする聖。
　「神学が好きなのかい？」
　脚立も増やしたほうがいいかな、と小さく呟きながら珪は聖に尋ねる。
　「私、寝子島神社でお世話になっているので。この島のことや寝子島神社、九夜山にある落神神社について自分なりに知っておきたいんです」
　聖は真摯な表情で答える。
　「なるほどね。僕は寝子島のことは詳しくはないんだけど、寝子島高校の生徒さんたちはみんなそういうことに興味があるのかな？」
　と、珪はテーブルで歴史資料などを広げている草薙龍八や風雲児轟へと視線を移す。
　「『落神伝説』が私たちの間でちょっとしたブームなんですよ」
　そんな風に説明をする。
　「天界から追放された神の話は神話類型として各地で見られるけれど、『落神神話』は独特だからかな？」
　珪は自分なりの見解を示す。
　「そうかもしれません。あ、早川先生。落神神社の資料ってご存知ないですか？」
　聖はそういえば、と言った風に質問する。
　彼女がこれまで読んできた本にも寝子島神社については解説などが書いてあったが落神神社については名前程度しか出てこなかったのである。
　「僕も全ての蔵書を把握してるわけじゃないけどね。前任の司書の先生が残してくれた申し送りによると、『落神神社の来歴や逸話などの資料はここにはない』らしいよ」
　思い出すように珪は答えた。
　「そうなんですか……。ありがとうございます。これ、読んできます」
　と、聖は本を抱いてテーブルへと向かった。

　彼女は寝子島神社の修行の時間ぎりぎりまで本を読んだ成果は以下のような事柄である。

　『寝子島神社は日本でも珍しい狛猫が存在する』
　『養蚕の守り神として猫を祀ってある神社は存在するが、寝子島神社において狛猫として猫が祀ってある理由は不明である』
　『猫が多い土地であることから少なからず猫と関連する出来事が過去にあった？』
　『落神神社は廃神社として長い期間が過ぎており、また九夜山の奥地に存在する為に、現在までに伝わっているのは名前のみである』

　「気がついたらもう時間です、本を借りて神社に参りましょう」
　両手を挙げて伸びをすると聖は立ち上がった。

　