Search for lost books｜リアクション

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図書室での一場面

　「……」
　『……』
　「……」

　３人の沈黙。刀は一瞬の思考停止、海は首を傾げて刀を上目遣いで見る。ブリジットは刀の反応を待つ。
　そうして。
　「アーチャー！　いきなり何言い出すんだよ！　Ｈな本じゃないよ！　剣術の本だよ！　ほら！　後、女の子がいきなりそういう事を言い出すのは良くない！」
　と、図書室にしては少し大きめの声を出して全力で否定する刀。本のカバーを外して中身も同一であるとアピールする勢いである。
　その声は図書室に響くほどではなかったが周囲からの注目は少なからず浴びたようだった。
　「いやね、冗談よ、冗談。……あと、図書館では静かにしなきゃダメよ」
　推理が外れたことに少しがっかりしたブリジットだったが気を取り直して刀に注意する。
　「誰のせいだよまったく……」
　声のトーンを落とす刀。
　『でもいがい。かたなくん、ほんとかあまりよまなさそうなイメージがあるから』
　と、海。さらにスケッチブックに言葉を続けていく。
　『かたなくんはふだんどんなほん、よんでるの？　やっぱりけんじゅつかんけいのほんとか？』
　書いては人に見せ、そしてページをめくっていく海の姿は、リスのような愛らしさがあった。
　「んー、小山内の言う通り剣術や剣道関連の本以外はあまり読まないよ。お勧めの本はあるか？」
　刀はそう言いながら鞄からノートを取り出して開く。調べ物も並行してやるつもりらしかった。
　「ミステリがお勧めよ」
　と、ブリジットが口を挟む。彼女の視線はミステリ小説のページに向けられている。
　「あっ、そのミステリは面白いよなー。犯人は○○でさー。トリックが舞台の誤認だなんて、全然気付かなかったよ。って、痛い痛い！？　……悪かったよ」
　彼女が読んでいる小説の題名を見た刀が容赦のないネタバレを行う。無自覚ながら、結果的に先ほどの報復にもなっていた。
　「人が読んでいる本のネタバレなんて最低よ！」
　身を乗り出して刀の肩あたりにパンチを見舞うブリジット。怒り顔である。
　『ふたりとも、めっ。』
　と、海がページを先送りして２人を叱る。
　「……はい」
　「わかったわよ」
　２人は図書室らしく静かになる。それに満足したのか海はページを巻戻して先ほどの刀の質問に答える。
　『わたしのおすすめのほん？　よくよむのはびじゅつかんけいのほんとかれんあいけいのしょうせつなの』
　海は言葉を続ける為にスケッチブックのページをめくる。その様子を確認して刀は言葉を返す。
　「美術系の本は高そうだな、そして恋愛物……か、試しに読んでみるか」
　と、本棚に目をやる。そこには刀が普段読まなそうな書籍が多様に並んでいる。
　伝記、冒険小説、歴史小説などなど。ぼんやりと刀がそれを眺めていると、くいっと彼の袖が引っ張られる。
　どうやら海が書き終えたらしかった。
　『びじゅつかんけいのほんはかうとけっこういいねだんしちゃうからよくかりてる。てんらんかいのずろくでもたかいの。れんあいけいのしょうせつはよんでてやっぱりおもしろいから』
　「ふむふむ、なるほどなぁ」
　と、刀は頷く。
　そして海はもう１ページスケッチブックをめくる。そこには既に文章が書いてあった。
　「おとこのこがすきそうなちょっとエッチなほんもよむの？」
　海との会話はタイムラグがあるせいか聞くタイミングを逃したらしい質問だった。
　童顔の海にそんな質問をされて少し困ったような顔をする刀。
　「俺も男なのでそういう本に興味がない、とは言わないけれどね……。ちょっと調べ物の本探してくるよ」
　と、席を外す刀であった。