怪人セブンの暗躍｜リアクション

怪人セブンの暗躍

　猫島軒の総力を結集し、超特急でオーダーを仕上げた畑中。
「やり遂げたアル……！　おまちどうさま、全メニュー完成アル！」
　円卓にずらりと並ぶ料理の皿、皿、皿！
「……壮観なのだ！」

　李はずらりと並ぶメニューに息を飲んだ。
「これ、本当に全部食べるのか？」
　李が尋ねると泉月花が即答した。
「もちろんです。あたしを誰だと思っているのですか？」
　その口調は自信に満ち溢れていた。
　早速、泉月花は両手を合わせて目を閉じる。
「いただきます……」
　その言葉に“英雄たち”が身構えた。
　前回の誘拐事件で泉月花のろっこんが明らかになっているからだ。
　その情報は既に両方のメルマガに配信済みである。
　そして、その発動キーワードが泉月花の言った『いただきます』だったからだ。
「あら？　そんな怖い顔しなくても大丈夫ですよ」
　察した泉月花は口元を綻ばせた。
「いただきますという言葉はご推測通り、あたしのろっこんの発動キーワードです。……ですが、ただ口にしただけでは発動しません。あたしのろっこんは他の人より攻撃的かつ強力なので、発動条件が少々厳しいのです」
「複合条件って奴か。あの時、加納が置かれてた条件ってなんだったか？」
　そう呟いた吉祥寺の目の前に猫島ラーメンが運ばれてきた。
　ラーメンの琥珀色のスープの海の中に、黄金色の麺がたゆたう。
　メンマや焼き海苔、チャーシューがトッピングされたシンプルな構成。
　過度な自己主張はせず、それでいてしっかりと彩りを添える名脇役たちばかりだ。
　どんぶりの中の湖面はキラキラと輝き、朝焼けの霧を彷彿とさせる湯気がもうもうと立ち上っていた。
「おっ、美味そうだな！　とりあえず今は飯だな！　どれどれ……？」
　吉祥寺がラーメンに箸を伸ばしたその時、泉月花が待ったを掛けた。
「吉祥寺さん、ちゃんと『いただきます』は言いましょう」
「ん？　あぁ、でも硬いこと言うなよ。ラーメンは出来たての熱々が美味いんだからな！　俺は味覚障害で味はわかんねーけど、麺ののどごしや食感は分かる。のびた麺はやっぱり、食べてても楽しくないぜ？」
　味覚障害を抱える吉祥寺にとって、食事のよしあしは快か不快かの二極に分かれる。
　美味いものを美味い内に食べるという考えは、恐らく多くの者が考えるであろう。
　しかし、それでも泉月花は執拗にこだわりを見せた。
「いいえ、これは神聖な行為です。普段はどうであれ、あたしの前ではちゃんと『いただきます』と言ってもらいますよ」
　泉月花の眼差しは真剣だった。
「料理を作った畑中さん御一家、材料となる作物を生産した農家や漁師の皆さんへの感謝、更に元を辿れば一個体の生命を今から自身に取り入れようとしている事への自覚。普段、食事の前に口にするたった６文字ですが、そこには深い意味が込められているのです」
　唐突な宗教色の強い泉月花の主張に、吉祥寺は目を瞬かせた。
「ですから吉祥寺さん。一旦箸を置いてください。みなさんもお願いします」
　泉月花のこだわりに彼らは少々困惑気味だが、言われるがまま従うことにした。
　いただきます、と全員が両手を合わせて唱和した。
「なんか、一瞬だけ全員と１つになれた気がするね？」
　魅紗歌は迷いに迷って選んだ味噌チャーシューメンを笑顔ですすっていた。
　その横で泉月花は自嘲気味に言葉を漏らした。
「暴食は、七罪の中で最も暴虐な罪なのです……」
　その言葉を、しっかり桜庭は聞き耳を立てていた。