怪人セブンの暗躍｜リアクション

怪人セブンの暗躍

　全員分の料理が運ばれて、いよいよ会食がスタートした。
　泉月花の食事のスピードは常人のそれと大きく逸脱しており、目を離した隙にひと皿を完食しているほどの速度であった。
　猛烈な食事速度の泉月花に、桜庭は苦笑いしながら声を掛けた。
「えっと、泉月花ちゃん。今、大丈夫？」
「……食事中は食事に専念させてください、と言いたいところですが、私も少々聞きたいことがありますので」
　泉月花は食事のペースを落とし始めた。
　……どうやら、箸を置いて人の話を置くという考えはないようだ。
　桜庭は先程から俯いてばかりの菜々緒を横目で眺めながら言った。
「さっきからナナオ、あんな感じなんだよね。こうやって会食したのもナナオがキミの事怖がってるからさ、少しでも恐怖心が紛れたらなって」
「それは、あの白いポンコツの意思？」
「それは……」
「桜庭さんではなく、あたしはあなたに答えてほしいです。菜々緒？」
　泉月花の鋭い視線が菜々緒の顔に刺さる。
　名指しされた菜々緒は、泉月花に目線を合わせないようにしながら答えた。
「……そうよ。私の、意思……です……」
　白亜の少女の唇が真一文字に固く閉じられた。
「菜々緒、怖がる必要ないのだ！　虫除けスプレー持ってきたのだ、安心するのだ！」
　李の持参したスプレーが果たして効果があるかはさておき、彼女の気遣いに菜々緒の表情の硬さがほぐれたのは間違いない。
「泉月花さん……。私は、もう……泉月花さんの指図は受けません」
「その割にはブルって語尾が敬語になっちゃってますよ？　昔みたいに……」
　泉月花の表情が歪む。
　これは、前回の誘拐事件で見せた顔だ。
　恐怖に屈服した者を見下す優越感に浸る悦楽の表情。
　それを“英雄たち”はあの時、鉄格子越しに見ていたので強く印象に残っている。
「ふふっ、威勢がよくなっても、根っこの部分じゃ何ら変わらないのですね、菜々緒？」
「……私は負けないわ。絶対に負けない」
　だが、言葉とは裏腹に菜々緒の両片は震えが収まらない。
　見かねた桜庭が間に割って入った。
「ね？　ナナオから会いにいくって言ったんだ。この様子だと相当頑張ったんだと思うよ？　泉月花ちゃんもそれ以上煽ったらナナオが可哀想だよ」
「可哀想？　この子に同情なんて似合わないですよ」
　泉月花の言葉には明確な敵意が含まれていた。
「いつかあなたたちは気が付くでしょう。目の前の白いポンコツが最低の下衆女だということをね？　それを知った時、あなたたちはどんな顔をするのでしょうね？」
　ニタニタしながら、泉月花は餃子を美味しそうに口の中へ頬張った。
「また何か企んでるでしょ、泉月花ちゃん？　そしてナナオにもまだ秘密がある。そうだよね？」
　泉月花は何も答えず、餃子を次々に口の中に放り込んでいた。
　桜庭はそれを肯定と受け取ると、泉月花が食べようとしていた餃子を横から箸を伸ばして横取りしてしまった。
「今度は負けないよ。ナナオも恐怖には負けないからさ、笑顔でね」
　桜庭が餃子を負けじと一口でかぶりついた。
　それを飲み込んだあと、彼女は気になることを泉月花にぶつけてみた。
「ところでさ、なんでナナオはこんなに泉月花ちゃんを怖がってるの？　ハエで拷問したの？」
　そのストレートすぎる質問に月居はラーメンをむせた。
　質問を投げかけられた泉月花の箸を握る手の力が強くなった。
「……何をしたかって？　知りたいですか？」
　泉月花はラーメンのスープを一気に飲み干すと、忌々しげに答えた。

「殺し損ねました」

　泉月花の菜々緒に対する視線には、呪毒めいた殺意がありありと見て取れた。