怪人セブンの暗躍｜リアクション

怪人セブンの暗躍

　情報班の机の一角には、後木真央、朝野未沙、そして北原みゆきと貴家衿花が座っていた。
「えっと、経緯は理解できました……」
　黒依は喉に物が詰まったような難しい顔をしてた。
「後木さんは、八神さんのメールに気がつくまで今回の依頼を知らなかった。朝野さんは知っていたけど、特別な行動を取る予定はなかった、と」
「いや、そんな無計画じゃないんだけどね？」
　絆創膏を撫でながら朝野は言った。
「みさリンって今年の春から急にブレイクしたでしょ？　あたし、デビュー前の卒アルの写真なんかも、他の壺職人たちと集めて調べたりしてたんだよ」
　朝野はその写真を取り出そうとポーチの中を漁る。
「みさリンが大罪持ちだとするなら、あたし、『色欲』だと思うんだ。色欲って変装能力のろっこんなんでしょ？　もしかしたらそれを使ってアイドルになったのかも？　そのろっこんを見出した泉月花さんのことを異様に慕っている裏付けにもなるし、アイドルってそれこそセックスシンボルだと思うから色欲の象徴になり得るかなって」
「すっげぇ、全部正解じゃね！？」
　楢木春彦が目を輝かせて賞賛する。
「絶対それだ！　壺井が『色欲』だ！　同行者が実は敵の変装だとか王道の展開だよな！　あ、でも……」
　楢木が突然訝しんだ。
「町長のプレゼンが目に留まったっつー経緯も、ちと気になったり。あの町長ってそんなに能力高いのか？　利用されてるとかならイイけど、偽者じゃねぇよなぁ？　それこそ、町長が色欲に……」
　ひとり混乱する楢木に、朝野が首を振った。
「町長さんが色欲っていう線は突飛すぎると思うよ？　それに残念だけど、あたしの推理は大外れ」
　ポーチからようやく取り出した写真を見て、黒依は目を疑った。
「……ピンクブロンド！」
「うん、これは予想外だったよ」
　朝野は苦笑いしていた。
「メルマガに流れてたよね？　桃髪のセブンは『強欲』の可能性が高いって。みさリン、今は茶髪だけど、自毛はもしかしたらピンクなのかも？」
「おいおい、これってヤバイんじゃないか？」
　楢木が色めき出す。
「つまり壺井は『強欲』の大罪持ちだ！　朝野、お手柄じゃねぇか！！」
「これは私も想定外です……、ですが、まだ断定は避けたいですね」
　黒依はこの案件を慎重に扱うつもりだ。
　寝子島にもピンクブロンドの髪の住人は実在する。
　染髪の可能性も否定できない。
「ウィッグっていう可能性もありますね」
　ここで貴家が口を開いた。
「いきなりお邪魔してごめんなさい。でも、この雰囲気、“フツウじゃない”わよね？」
　その口ぶりに後木が無邪気に尋ねた。
「もしかして、もれいびなのだ？」
　その直球な質問に一同は唾を飲んだ。
　だが、貴家は表情を変えずに即答した。
「そうよ。今年の４月から私はもれいびになった。フツウを乱す悪い奴らを懲らしめる『名も無き英雄たち＜ネームレスヒーローズ＞』や、島で退治された殺人鬼の噂は聞いているわ」
　貴家の表情は真剣だった。
　とても嘘を吐くような様子ではない。

　ところで、なぜ貴家がこの場にいるのかを説明しなければならない。
　彼女は本日、偶然この場に居合わせた。
　バッグの中には中学の宿題。
　苦手な英語のせいか、自宅では全くはかどらなかった。
　ゆえに着の身着のまま図書館で勉強を済ませて帰宅するはずだった。
　だが、ざわつく図書館の空気に不穏さを感じ取った貴家は、早速ねこったーをチェックした。
　魅紗歌の来訪をそこで知り、実際に取り巻きの群衆越しに本人を確認した。
（ネコジマ・ランウェイの為だっけ……？　大きなイベントはきっと何か不吉なことが起きる）
　多分気のせいじゃない、この騒ぎもただのミーハーじゃない、別の緊張のようなぴりぴりした空気を感じる。
（もしかしたら、みさリンとマネージャーさんに危険が迫っているのかも？　だとしたら、私が２人を近くで護らなきゃ……）
　芸能人フィーバーで沸く図書館の雰囲気に、フツウを乱す気配を貴家は感じた。
　そんな中、図書館内で慌ただしく魅紗歌と泉月花に接触を試みる者たちがいた。
　そしてそれを取り仕切っていると思われる黒髪のロリータ服少女。
　貴家は危険を承知で、黒髪ロリータ少女を呼び止めた。
「あの、２人に近づいて何をしようとしているの？」
「……はい？」
　黒髪ロリータ少女――黒依の目が点になった。