怪人セブンの暗躍｜リアクション

怪人セブンの暗躍

【11時22分　寝子島図書館内】

　いつもは静かな図書館も、今日ばかりはどよめいていた。
　人気トップアイドルの壺井魅紗歌と、その付き人（正体は叢雲教団代表代行）の加納泉月花が来館しているからだ。
　しかも２人は寝子島の郷土史関連の書籍をかき集めるように指示しており、職員が書籍を運んでは本棚へ戻す往復が繰り広げられていた。
　周囲で見守る一般の利用者は、勤勉な芸能人の姿を見て読書どころではなくなっている上にサインやツーショット写メを求める人で沸き立っていた。
　あわや大混乱の最中、周囲に説明をする者たちがいた。
「魅紗歌様はお勉強中なのだ静かにしてほしいのだ～」
　魅紗歌のファン集団『壺職人』を率いる後木真央をはじめとする有志である。
　町役場前の暴動が災いして地元警察にマークされた壺職人は、後木の苦渋の決断によって参加人数を大幅に制限した。
　図書館に入れる壺職人はほんのひとにぎりに過ぎず、役割も魅紗歌のサポートに回る立ち位置に変わらざるを得なかった。
「おひさしぶりです、泉月花さん！　覚えていますか？」
　そんな中、壺職人の１人、朝野未沙が泉月花に接触を試みた。
　泉月花は朝野をチラリと横目で盗み見た。
「……ええ、おひさしぶりです」
「覚えてくれたんですね、嬉しいです！」
　朝野は机の上に乗っかっている泉月花の豊満な胸を凝視しながら鼻息を荒くする。
「ハァハァ……、嬉しくてなんだか汗ばんできた……」
　朝野の指先があらぬ方向へうねり出す。
　彼女のろっこん『あなたの後ろに這い寄る触手』の効果が出始めてきているのだ。
「い、泉月花さんのおっきなおっぱいを、あたしの触手で絡め取っていいですか！？　嫌だといってもやるけどね！？」
「ここではろっこんの発動は難しいと思いますよ」
　泉月花はグネグネと伸縮する朝野の指先を見ながら呟いた。
「それに、ここで私に破廉恥行為をしたら……」
　泉月花が警告を発する前に、机の相向かいに座っていた方向からシャープペンが投槍めいた勢いで朝野の手の甲に突き刺さった。
　傷は浅いが、意表を突くには充分すぎる光景だ。
「……ごめんなさいっ！　よそ見してたら手で払っちゃった！　怪我はなかった？」
　魅紗歌が慌てて朝野に駆け寄る。
　そして握手をするような形で朝野の手の甲からペンを引き抜いた。
「大変……！　ちょうど絆創膏持ってるから、貼ってあげる！」
　魅紗歌に治療してもらえて、朝野の顔は緩みっぱなしだ。
　そこへ魅紗歌の顔が朝野の耳元に近付いた。

「次は切り落とすぞ」

　朝野の全身の筋肉が硬直する。
　魅紗歌の普段の声とは到底かけ離れた威圧感ある重低音ボイスが、彼女の三半規管を通して脳へと伝達された。
　それはどんな危険信号よりも鮮烈に彼女の脳内神経細胞に焼き付く。
　これは毒舌ではない、殺意ある最後通牒である。
「はいっ、これで完了だよ！　それじゃ、このあとも馬車馬の如く魅紗歌たちを守ってね！」
　硬直した体を強制的に反転させられて背中を押された朝野。
　狼狽を隠しきれないその様子に、黒依アリーセが情報班が控える館内の隅へと連れて帰った。