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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
笑顔になるまで
秋空の青に刷毛で引いたような柔らかな朱金の雲が走る。雲を高く舞わせる風が冷たい空から流れ落ちて、高峰 一馬の短髪を乱暴に撫でて過ぎる。
押し寄せた夕風に暖かな茶色した目を細めて、冷たい風を胸に満たす。座り込んで動けずにいた階段から立ち上がる。
十七の歳にしては堅い皮に覆われた掌で両の頬を叩く。
トレーニングウェアに包んだ筋肉質な足を弾ませ、学校のグラウンドに続く階段を下りる。階段に落ちる黄昏の色がいつもよりも濃い。いつもなら陸上部が走りこんでいるトラックにも、人気が少ない。
（悩んでたら遅くなっちまった）
心に洩らした呟きの思わぬ重さに頬が歪む。胸の内にわだかまる煩悶を振り払い、いつも通りの準備運動に入る。
（俺は。俺はさ）
膝を曲げる。伸ばす。いつもと変わらぬ動作を繰り返す。
（俺さぁやっぱ、友達が痛いのも辛いのも悲しいよ）
そうしながらも胸に湧き出すのは、階段で動けずにいた時と同じ思い。それが全てで、それが悩みの大元。
冷たい風に昂然と顔を上げ、走り出す。悩みすぎて熱を持った額や頬に、夕風が丁度よかった。いつものように体を動かせば破裂しそうな心も頭もきっと少しは冷える。そう信じて走る。普段より少しペースが早いと気付いて、それでも落とさず手足を動かす。我武者羅に地面を蹴る。
（けど俺、）
息が乱れる。
どうしたらいいのかわからなかった。
苦しげに悩みを吐き出す友達の顔が閉ざした瞼の裏を過ぎって、胸が痛んだ。ペースが早いせいではなく、息が余計に苦しくなる。
友達の辛苦に同調することもできた。わかるよ、辛いなあ、そう言ってしたり顔で頷けば、もしかしたら友達の抱える悩みは僅かなりとも軽くなったのかもしれない。
（けど、）
地団駄を踏むように地面を蹴る。胸に渦巻く思いを持て余してトラック横の鉄棒に飛びつく。走りこんで熱く熱持つ堅い掌に、鉄棒の冷たさがひどく馴染んだ。体力を削り取った重い身体を腕の筋肉だけで持ち上げる。
（わかりもしねえで適当なこと言えっかよ！）
大柄で筋肉質な身体を持ち上げる毎、腕の筋肉がぎしぎしと軋んで痛む。痛みも疲れも無視して限界まで懸垂する。晩秋に差し掛かった冷たい空気にも関わらず、全身から汗が噴き出す。
（けど、……けどそれで、結局何も言えなくってさ）
掌に滲んだ汗で指が滑った。咄嗟に掴み直そうとするも、疲弊した腕も足も言う事を聞かなかった。着地さえ上手く出来ず、砂の上、無様に尻をつく。
自分の身体に対する悔しさと苛立ちが込み上げて、思わず己の腿を拳で打つ。
どうしたら良かったのだろう。
あんな顔をする友達を、どうしたら慰められたのだろう。
荒れる息を整えもせず、流れる汗を拭いもせず、立ち上がる。悲鳴を上げる足で地面を踏みしめれば、じわり、視界が歪んだ。
（……違うな、）
そもそも。そもそも、慰められることを求めているのだろうか。
（そういうのもわかんなくなっちまったんだよな）
だから、ただ頷くしかできなかった。そうかぁ、ぐらいしか言葉にできなかった。あとは唸って、話を聞いていた。それだけしかできなかった。
（……俺、人の気持ちとかわかんねえやつなのかなあ）
大事な友達なのに、それは確かなのに、その友達のことも何もわかっていない。
視界を滲ませた涙が落ちる。
束の間の夕焼けを残して太陽が落ち切り、宵闇の落ちるトラックを再び駆け出す。いつしか人気は絶えている。きっと誰にも見られていない。万が一誰かに見られていたとしても、額から流れる汗と誤魔化せる。
走る。
溢れて零れる、ふがいない己に対する悔しさを、友達の相談に乗っていた時に飲み込んだ涙を、乱暴に拭う。涙で冷えた頬に風を受けて前を向く。
（でも、話してくれた）
ほんの少しだけではあるけれど、心の内を話してくれた。それは、
（俺にわかってもらいたいって、思ってくれたんだって、）
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、自惚れてもいいのだろうか。
ほんのちょっとの自惚れの分だけ笑んでみれば、零れた笑みの分だけ力が湧いた。
涙を拭った拳に力をこめる。強く、地面を蹴って走る。
しっかりと見据えるべき物がある。
だから走り続ける。
（考え続けろ）
どれだけ息が上がっても、どれだけ心が苦しくても。
真直ぐに前を見つめ、一心に走り続けながら、たぶん今も辛い思いを抱えているだろう友達を想う。
友達の悩みも辛さも、
（全部は無理かも知れないけど）
せめてちゃんと寄り添えるように、支えられるように、考えたい。
（俺、何ができるかわかんねーけど、お前の側にいて元気づけたいよ）
そうして、できれば一緒に笑って欲しい。
悩みを胸に詰めたまま、少年は一人、日暮れのトラックを走り続ける。
押し寄せた夕風に暖かな茶色した目を細めて、冷たい風を胸に満たす。座り込んで動けずにいた階段から立ち上がる。
十七の歳にしては堅い皮に覆われた掌で両の頬を叩く。
トレーニングウェアに包んだ筋肉質な足を弾ませ、学校のグラウンドに続く階段を下りる。階段に落ちる黄昏の色がいつもよりも濃い。いつもなら陸上部が走りこんでいるトラックにも、人気が少ない。
（悩んでたら遅くなっちまった）
心に洩らした呟きの思わぬ重さに頬が歪む。胸の内にわだかまる煩悶を振り払い、いつも通りの準備運動に入る。
（俺は。俺はさ）
膝を曲げる。伸ばす。いつもと変わらぬ動作を繰り返す。
（俺さぁやっぱ、友達が痛いのも辛いのも悲しいよ）
そうしながらも胸に湧き出すのは、階段で動けずにいた時と同じ思い。それが全てで、それが悩みの大元。
冷たい風に昂然と顔を上げ、走り出す。悩みすぎて熱を持った額や頬に、夕風が丁度よかった。いつものように体を動かせば破裂しそうな心も頭もきっと少しは冷える。そう信じて走る。普段より少しペースが早いと気付いて、それでも落とさず手足を動かす。我武者羅に地面を蹴る。
（けど俺、）
息が乱れる。
どうしたらいいのかわからなかった。
苦しげに悩みを吐き出す友達の顔が閉ざした瞼の裏を過ぎって、胸が痛んだ。ペースが早いせいではなく、息が余計に苦しくなる。
友達の辛苦に同調することもできた。わかるよ、辛いなあ、そう言ってしたり顔で頷けば、もしかしたら友達の抱える悩みは僅かなりとも軽くなったのかもしれない。
（けど、）
地団駄を踏むように地面を蹴る。胸に渦巻く思いを持て余してトラック横の鉄棒に飛びつく。走りこんで熱く熱持つ堅い掌に、鉄棒の冷たさがひどく馴染んだ。体力を削り取った重い身体を腕の筋肉だけで持ち上げる。
（わかりもしねえで適当なこと言えっかよ！）
大柄で筋肉質な身体を持ち上げる毎、腕の筋肉がぎしぎしと軋んで痛む。痛みも疲れも無視して限界まで懸垂する。晩秋に差し掛かった冷たい空気にも関わらず、全身から汗が噴き出す。
（けど、……けどそれで、結局何も言えなくってさ）
掌に滲んだ汗で指が滑った。咄嗟に掴み直そうとするも、疲弊した腕も足も言う事を聞かなかった。着地さえ上手く出来ず、砂の上、無様に尻をつく。
自分の身体に対する悔しさと苛立ちが込み上げて、思わず己の腿を拳で打つ。
どうしたら良かったのだろう。
あんな顔をする友達を、どうしたら慰められたのだろう。
荒れる息を整えもせず、流れる汗を拭いもせず、立ち上がる。悲鳴を上げる足で地面を踏みしめれば、じわり、視界が歪んだ。
（……違うな、）
そもそも。そもそも、慰められることを求めているのだろうか。
（そういうのもわかんなくなっちまったんだよな）
だから、ただ頷くしかできなかった。そうかぁ、ぐらいしか言葉にできなかった。あとは唸って、話を聞いていた。それだけしかできなかった。
（……俺、人の気持ちとかわかんねえやつなのかなあ）
大事な友達なのに、それは確かなのに、その友達のことも何もわかっていない。
視界を滲ませた涙が落ちる。
束の間の夕焼けを残して太陽が落ち切り、宵闇の落ちるトラックを再び駆け出す。いつしか人気は絶えている。きっと誰にも見られていない。万が一誰かに見られていたとしても、額から流れる汗と誤魔化せる。
走る。
溢れて零れる、ふがいない己に対する悔しさを、友達の相談に乗っていた時に飲み込んだ涙を、乱暴に拭う。涙で冷えた頬に風を受けて前を向く。
（でも、話してくれた）
ほんの少しだけではあるけれど、心の内を話してくれた。それは、
（俺にわかってもらいたいって、思ってくれたんだって、）
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、自惚れてもいいのだろうか。
ほんのちょっとの自惚れの分だけ笑んでみれば、零れた笑みの分だけ力が湧いた。
涙を拭った拳に力をこめる。強く、地面を蹴って走る。
しっかりと見据えるべき物がある。
だから走り続ける。
（考え続けろ）
どれだけ息が上がっても、どれだけ心が苦しくても。
真直ぐに前を見つめ、一心に走り続けながら、たぶん今も辛い思いを抱えているだろう友達を想う。
友達の悩みも辛さも、
（全部は無理かも知れないけど）
せめてちゃんと寄り添えるように、支えられるように、考えたい。
（俺、何ができるかわかんねーけど、お前の側にいて元気づけたいよ）
そうして、できれば一緒に笑って欲しい。
悩みを胸に詰めたまま、少年は一人、日暮れのトラックを走り続ける。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2015年04月04日
- 参加申し込みの期限
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- 2015年04月11日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2015年04月11日 11時00分
