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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
笑顔になるまで
踏み出した一歩は、気付けば駆け足になっていた。
猫のように鮮やかで丸い翠の眼を頭上に高く広がる空に向けて、空に輝く太陽のあまりの眩しさに瞼をぎゅっと閉ざす。
瞼の裏に赤い太陽を残したまま、眼を閉じていても道筋を辿れる、走り慣れた路地に駆け込む。毎朝、朝練と称した猫ウォッチングに使う、山茶花の垣根が繁る細い路地。
太陽の残像と熱が残る瞼を開く。
車も通れない路地裏に、人気はない。
『――あのな、真央』
ついさっきの叔父の声が耳に蘇って、後木 真央は枯葉のにおいが混じる秋の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。明るい茶色の髪を激しく揺らし、頭を横に振る。両手を持ち上げ、うっかりすると歪んでしまいそうになる両の頬を掌でぱちん、叩く。
「にゃにゃにゃがおー！」
胸に満たした空気を全部掛け声にして吐き出す。両手を丸める。
それを合図に、小柄な身体に宿ったろっこんが発動する。
真央の足元、ふくふくとした体つきの三毛猫がのっそりと現れる。真央の足元で大きく欠伸をし、面倒くさそうに丸くなろうとする。
「がおー」
召喚に応じてくれた三毛猫の傍にしゃがみこみ、真央は明るい声で猫の名を呼ぶ。猫のがおーは大きな三角耳をぴくりと震わせ、真央の声に応じて眼だけを薄く開けてみせた。
眉間に皺を寄せた猫のふっくふくの胴体を抱き上げ、立ち上がる。ぐんにゃり伸びてされるがままのがおーの顎と前肢を頭に、後ろ肢を肩に乗せ、
「最近エノコロ岬行ってないのだ、あそこに行こうなのだ」
殊更に明るい声で言うなり走り始める。
（……頭の中、ぐるぐるなのだ）
ぐるぐるの気分を変えるには、普段走らない所を走るに限る。
でも、人が居すぎる所も居ない所も嫌だった。人が居ても気にされない場所がいい。
（そうだ、猫恋の鐘）
頭に猫の腹の熱と柔らかさを感じながら思いついて、真央はひとり頷く。自主練も兼ね、本気の足取りでエノコロ岬への道を駆ける。
寝子島街道を渡り、寝子ヶ浜海岸沿いの堤防に駆け上る。昼過ぎの太陽と冷たい秋風を全身に受けて、ただひたすらに手足を動かす。徐々に上がってくる息を意識する。疲れてくる身体に気を回す。でなければ、
『あのな、真央』
叔父の声が、言葉が頭をぐるぐると回ってしまう。
『いくら頭の回転早くて動じなくても、戦前派の親父たちにその理解は無理だから。ついでに正直に言えば、俺も理解できん』
年の離れた兄のように思っている叔父の言葉がぐるぐる、
『これは俺の持論だからお前に押し付けたくはないんだが……』
困ったような、苦いものを含んだような、叔父の声がぐるぐる、ぐるぐる。
困らせたい訳がなかった。そんな声を聞きたい訳じゃなかった。
でも、
（叔父貴にまで分からないって言われちゃったのだ）
『人は生まれて生きて死ぬまで、独りだ。だから人との触れ合いを大事にする。お前も自分で見つけて来い』
受け止めてくれるとしがみついたのに、突き飛ばされた気がした。
猫恋の鐘に至る高台の前のお土産屋の前を過ぎる。海風のにおいと遠い波の音を感じながら、登るには少し辛い勾配の坂道を駆ける。頭からずり落ちかけるがおーの身体を汗の滲む片手で支え、海を一望できる岬の丘まで一気に駆け上がる。
汗まみれの顔を冷たい海風に撫でられ、真央は乱れた呼吸もそのまま、視界いっぱいに広がる海と空を瞳に映す。
「うわー、すげぇいい景色なのだ」
ここなら誰か居ると思っていた。走りこんでいても誰の気にも留められないと思っていた。
なのに、猫恋の鐘の丘に人の姿はなかった。
「全部真央ちゃん独り占めなのだ！」
誰も居ない猫恋の鐘で叫んだ瞬間、涙が止まらなくなった。
誰も居ないのを幸い、その場にうずくまる。地面に膝をつく。それ以上は崩れないよう、膝に手を置き肘を突っ張る。
（独りは嫌だ）
血を吐くように、呻く。でも、それでも、
（自分がしたいことを曲げるのも嫌だ）
結果が全て自分に返るのは分かっている。
膝に握り締めた拳に涙が落ちる。拳を伝い落ちる涙を見開いた眼で睨み付けて、ふと思い至る。自分の心に従って動いた結果、自分に突き付けられるのが孤独であると、そうなると心の奥で分かっているから、
（だから、……孤独に慣れるために走るんだろうか）
思った途端、堪え切れない嗚咽が洩れた。
心に巣食う恐怖に耐え兼ね、縋るようにスマホを取り出す。この前、廃屋に閉じ込められた時に貰ったメール画面を呼び出し、何度も読み返す。
離れていても独りじゃない、そう伝えてくれる友人がいる。
「大丈夫なのだ」
大切な友人のメールに向け、頭の上で身動ぎするがおーに向け、囁く。
（自分で作った孤独に自分で負けてどうする）
猫のように鮮やかで丸い翠の眼を頭上に高く広がる空に向けて、空に輝く太陽のあまりの眩しさに瞼をぎゅっと閉ざす。
瞼の裏に赤い太陽を残したまま、眼を閉じていても道筋を辿れる、走り慣れた路地に駆け込む。毎朝、朝練と称した猫ウォッチングに使う、山茶花の垣根が繁る細い路地。
太陽の残像と熱が残る瞼を開く。
車も通れない路地裏に、人気はない。
『――あのな、真央』
ついさっきの叔父の声が耳に蘇って、後木 真央は枯葉のにおいが混じる秋の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。明るい茶色の髪を激しく揺らし、頭を横に振る。両手を持ち上げ、うっかりすると歪んでしまいそうになる両の頬を掌でぱちん、叩く。
「にゃにゃにゃがおー！」
胸に満たした空気を全部掛け声にして吐き出す。両手を丸める。
それを合図に、小柄な身体に宿ったろっこんが発動する。
真央の足元、ふくふくとした体つきの三毛猫がのっそりと現れる。真央の足元で大きく欠伸をし、面倒くさそうに丸くなろうとする。
「がおー」
召喚に応じてくれた三毛猫の傍にしゃがみこみ、真央は明るい声で猫の名を呼ぶ。猫のがおーは大きな三角耳をぴくりと震わせ、真央の声に応じて眼だけを薄く開けてみせた。
眉間に皺を寄せた猫のふっくふくの胴体を抱き上げ、立ち上がる。ぐんにゃり伸びてされるがままのがおーの顎と前肢を頭に、後ろ肢を肩に乗せ、
「最近エノコロ岬行ってないのだ、あそこに行こうなのだ」
殊更に明るい声で言うなり走り始める。
（……頭の中、ぐるぐるなのだ）
ぐるぐるの気分を変えるには、普段走らない所を走るに限る。
でも、人が居すぎる所も居ない所も嫌だった。人が居ても気にされない場所がいい。
（そうだ、猫恋の鐘）
頭に猫の腹の熱と柔らかさを感じながら思いついて、真央はひとり頷く。自主練も兼ね、本気の足取りでエノコロ岬への道を駆ける。
寝子島街道を渡り、寝子ヶ浜海岸沿いの堤防に駆け上る。昼過ぎの太陽と冷たい秋風を全身に受けて、ただひたすらに手足を動かす。徐々に上がってくる息を意識する。疲れてくる身体に気を回す。でなければ、
『あのな、真央』
叔父の声が、言葉が頭をぐるぐると回ってしまう。
『いくら頭の回転早くて動じなくても、戦前派の親父たちにその理解は無理だから。ついでに正直に言えば、俺も理解できん』
年の離れた兄のように思っている叔父の言葉がぐるぐる、
『これは俺の持論だからお前に押し付けたくはないんだが……』
困ったような、苦いものを含んだような、叔父の声がぐるぐる、ぐるぐる。
困らせたい訳がなかった。そんな声を聞きたい訳じゃなかった。
でも、
（叔父貴にまで分からないって言われちゃったのだ）
『人は生まれて生きて死ぬまで、独りだ。だから人との触れ合いを大事にする。お前も自分で見つけて来い』
受け止めてくれるとしがみついたのに、突き飛ばされた気がした。
猫恋の鐘に至る高台の前のお土産屋の前を過ぎる。海風のにおいと遠い波の音を感じながら、登るには少し辛い勾配の坂道を駆ける。頭からずり落ちかけるがおーの身体を汗の滲む片手で支え、海を一望できる岬の丘まで一気に駆け上がる。
汗まみれの顔を冷たい海風に撫でられ、真央は乱れた呼吸もそのまま、視界いっぱいに広がる海と空を瞳に映す。
「うわー、すげぇいい景色なのだ」
ここなら誰か居ると思っていた。走りこんでいても誰の気にも留められないと思っていた。
なのに、猫恋の鐘の丘に人の姿はなかった。
「全部真央ちゃん独り占めなのだ！」
誰も居ない猫恋の鐘で叫んだ瞬間、涙が止まらなくなった。
誰も居ないのを幸い、その場にうずくまる。地面に膝をつく。それ以上は崩れないよう、膝に手を置き肘を突っ張る。
（独りは嫌だ）
血を吐くように、呻く。でも、それでも、
（自分がしたいことを曲げるのも嫌だ）
結果が全て自分に返るのは分かっている。
膝に握り締めた拳に涙が落ちる。拳を伝い落ちる涙を見開いた眼で睨み付けて、ふと思い至る。自分の心に従って動いた結果、自分に突き付けられるのが孤独であると、そうなると心の奥で分かっているから、
（だから、……孤独に慣れるために走るんだろうか）
思った途端、堪え切れない嗚咽が洩れた。
心に巣食う恐怖に耐え兼ね、縋るようにスマホを取り出す。この前、廃屋に閉じ込められた時に貰ったメール画面を呼び出し、何度も読み返す。
離れていても独りじゃない、そう伝えてくれる友人がいる。
「大丈夫なのだ」
大切な友人のメールに向け、頭の上で身動ぎするがおーに向け、囁く。
（自分で作った孤独に自分で負けてどうする）
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2015年04月04日
- 参加申し込みの期限
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- 2015年04月11日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2015年04月11日 11時00分
