天神平薬局のお薬キャンペーン｜リアクション

天神平薬局のお薬キャンペーン

「失礼します」
　小柄な塔ヶ崎璃亜はか細い声で更衣室のドアを開けた。中には誰もいなかった。壁際に用意されたベンチにちょこんと座る。走ってきたのか。頬に張り付いた銀色の髪を手で後ろに流した。
　一息入れた璃亜はスカートのポケットから一粒の錠剤を取り出した。見た目は市販品の薬と大差ない。
「飲んだら幸せな気分になれる薬ですか」
　店員の言葉を思い出しながら呟いた。掌に乗せた錠剤を青い瞳が見つめる。
　突然、ドアが開いてアリサが勢いよく入ってきた。
「あら、早いわね」
「おはようございます」
　璃亜はベンチから立ち上がってお辞儀をした。おはよう、とアリサは軽く返して宛がわれたロッカーへと向かう。
「掌を見ていたみたいだけど、どうかした？」
「ここにくる途中、無料で薬を貰いました。飲むと幸せな気分になるらしいです」
「あたしも貰ったわ。目を閉じて選んだけど」
　子供っぽい笑みでアリサはロッカーの扉を開けた。ジャケットを脱いで備え付けのハンガーに掛ける。シャツのボタンを外しながら璃亜に話を振った。
「それで飲むつもりなの？」
「少し怖いですが、これを飲めばアルバイトを頑張って続けられるような気がして」
「へー、あたしはこの職場って居心地が良いけどね」
　脱いだシャツをロッカーに入れてアリサはズボンのジッパーを下げた。
「あ、あの、この職場のせいではなくて私が失敗ばかりなのが悪いのです。この薬を飲めば気分的に楽になれるような気がして」
　璃亜は掌の薬に改めて目を向けた。
「あたしが先に飲んでみてもいいわよ」
「あ、そ、そんな、悪いです。自分のことなので、私が飲みます」
　璃亜はたどたどしい言葉で言った。動揺したように目が動く。下着を脱ぎ終えたアリサが手を止めて全裸で聞いていたのだ。
「あたしも飲んでみるよ。効果が知りたいからね」
　アリサはカラフルなビキニを取り出し、下から順に装着した。迫り出した胸に括れた腰、均整の取れた脚は見事の一言に尽きる。
　璃亜は見惚れたような状態となった。
「どうかした？　あたしが先に試してもいいのよ」
「あ、大丈夫です」
　慌てた様子で璃亜は錠剤を口に入れた。
「んふぁ！？」
　妙な声を漏らして身体を震わせる。譫言のように、熱い、と繰り返した。その急激な変化を目の当たりにしたアリサが駆け寄った。
「ちょっと、大丈夫なの？　気持ち悪いなら飲み物を持ってくるわよ」
「気持ちは……とても良いです。生まれ変わったような感じで。今日のお仕事、楽しくやれそうな気がします」
　天国でも見えているのだろうか。璃亜は満面の笑みで答えた。
「面白いわね」
　アリサは挑戦的な目でロッカーに引き返し、ジャケットから取り出した錠剤を口に放り込んだ。
「……なーんだ。あたしには効果がないみたいね」
　アリサは肩を竦めて見せた。
　璃亜は幸せそうな顔でスクール水着に着替えた。
「今日も張り切って仕事をするわよ」
「はい、頑張ります」
　水着ガールズバー「ジュエル」のキャストに相応しい格好となり、二人は揃って更衣室を後にした。