天神平薬局のお薬キャンペーン｜リアクション

天神平薬局のお薬キャンペーン

　旧市街の細い道を阿木陸羽は弾むように歩いていた。淡い桜色の髪は長く、柔らかい曲線が彼女の頬を包み込む。カーディガンにチェックスカートは、どこか春を思わせた。
「気持ちの良い朝なのです」
　赤い瞳が空を見る。にっこりと微笑んで気ままな散歩を続けた。
　込み入った道を適当に歩いていると、一軒の薬局に出くわした。出入口の横には細長い台が置かれていた。その上に並べられた薬に陸羽の目が留まる。
　現場を任された若い女性店員は自然な笑みを浮かべた。
「お薬のキャンペーンやってますぅ。今なら一回分が無料ですよぉ」
　俄然、興味を覚えた陸羽は笑顔で駆け寄った。
「こーさんが元気になるお薬が欲しいのです！」
「えーと、こーさんは若い男性の方ですかぁ」
「そうですよ」
「じゃあ、こちらのお薬を試してくださいねぇ。あー、そうですねぇ。彼女さんも必要かもー」
　店員は二錠の媚薬を手渡した。
「ありがとうなのです！」
　店員に向かって元気に手を振ると、陸羽は猛烈な勢いで走り出す。里山で鍛えた足は相当なもので瞬く間に見えなくなった。
「彼女さんは十分に元気ですねぇ」
　呆れたような表情を戻して店員は次の客に備えた。

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