天神平薬局のお薬キャンペーン｜リアクション

天神平薬局のお薬キャンペーン

　桜花寮を柔らかい朝陽が照らす。部屋の中に鳥の囀りが聞こえてきた。
　浅山小淋は苦しそうな表情で眠っていた。寝返りを打った拍子に目を覚ます。
　気だるげに上体を起こした。ぼんやりとした目で少しの間を過ごし、緩やかな動きで自身の額に手を当てる。
　のろのろと起き上がって風邪薬を手にした。以前の飲み残しで日付は少し古い。小淋は溜息を吐いた。誰かに手を引かれるような動きでクローゼットの前に立つ。
　微妙に揺れる身体でパジャマのボタンを外していった。

　旧市街の暗がりを常闇月が疾走していた。長く編み込まれた髪と格子柄のマフラーが揃って風に靡く。
「……小淋さん？」
　前方を見据えた。白いダウンジャケットを着た小淋がふらふらと歩いている。
　月は近くの塀に飛び乗った。身を低くして相手との距離を詰める。横顔を目にして、やはり、と呟いた。
「……風邪でしょうか」
　小淋の青い瞳が潤んで見える。頬は少し赤い。耳を澄ますと苦しい息遣いが聞こえてきた。
　月は小淋の目指す先を見やる。真っ先に薬局が目に付いた。店頭には長机が置かれ、店員と思われる若い女性の姿があった。
「私は食べ物を調達しましょう」
　速やかに壁から降りて、数瞬、瞼を閉じる。月は決めた方角に向かって移動を開始した。
　路地を走り抜けた先に店舗が見えてきた。二匹の猫が躍る看板が目印のコンビニエンスストア「ネコンビ」である。
　月は速度を落として店の中に入っていった。

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