天神平薬局のお薬キャンペーン｜リアクション

天神平薬局のお薬キャンペーン

　緩いチュニックにホットパンツ姿の朝野未沙がコンビニから出てきた。手には小さなペットボトルを持っていた。
「急いで戻らないとね」
　未沙は路地へと駆け込んだ。セミロングの赤い髪を振り乱して入り組んだ道を突き進む。
　天神平薬局がある通りの店舗の隙間に収まると、持っていたペットボトルの中身を飲んだ。走った影響で見る間に減っていく。
「危ない、飲み干すところだったわ」
　底に一センチくらい残して袋の顆粒を注ぎ込む。しっかりと蓋をして入念に振った。白濁とした液体が完成した。
「これを肌に塗られた女の子はどうなるのかしらね」
　未沙の唇が僅かに開いて、ねっとりとした舌が奥で蠢いている。軽い興奮を覚えたのか。自身の胸を軽く握った。
「……あぅん、ってなにしてるのよ。お楽しみはこれからなのに」
　通りを窺うように、そっと顔を出す。時間と共に未沙の表情が淫らな色に染まっていった。

　小山内海がサイドテールを揺らしながら歩いている。ゆったりとした水色のパーカーに青いタータンチェック柄のスカートを合わせていた。
　よく動く青い瞳が一点を見つめる。道端に長机が置いてある。青いリボンを蝶のように羽ばたかせて近づいていった。
　机上には各種の薬が並べられていた。周囲に店員の姿はなかった。代わりに一枚の紙が目に留まる。
『どうしてもこの場を離れないといけない事態（トイレ）が起こりました。只今、お薬キャンペーン中　無料　試飲　でき』
　切羽詰まった後半の文章に海は悪いと思いながらも笑みが零れた。薬の効果は書かれていないので適当に選んだ。
　海は掌の錠剤に目を落とし、少し考えるような顔で周囲に目を向けた。何かを見つけたのか。一方に向かって走っていく。物陰に身を潜めていた未沙が透かさず後を追いかけた。
「逃がさないわよ、海ちゃん」
　海は自動販売機の前で足を止めた。未沙は横手の電信柱に飛び込んで身を隠す。
「ここで飲むみたいね」
　海は自動販売機でペットボトルを購入した。錠剤を口に含んで蓋を開けた。おちょぼ口で中身を小刻みに飲んだ。
「海ちゃん、可愛いわ」
　電信柱から半顔を覗かせた未沙が腰をくねらせる。
　飲み終えた海は手や足を試すように動かした。変化がないことに不満があるような表情で少し肩を落として歩き出した。未沙は気付かれない距離を維持して付いていく。
　海が急に立ち止まった。頬を手で挟み込んだ。全身の震えはサイドテールにまで伝わった。見つけた路地に喘ぐような表情で入っていった。
　未沙は歓喜の表情で身を震わせた。
「海ちゃん、媚薬を飲んだのね。今、行くわ」
　赤い髪が火の玉と化して飛んでいく。海が曲がった路地に突っ込んだ。
　薄暗い中に小さな背中を見つけた。左手の壁に片手を付いて苦しそうに上体を屈めていた。
「海ちゃん！」
　未沙が襲い掛かる。海は振り向く間もなく、背後から抱き締められた。
「海ちゃん、苦しそうね」
　未沙は赤くなった耳朶に向かって囁いた。それだけで海の身体が腕の中で小さく跳ねた。
「あたしが楽にしてあげるね。この媚薬入りの液体を肌に擦り込んであげるわ」
　海の腰に片腕を回した状態で未沙はペットボトルの蓋を開けた。飲み口を掌で覆うように持ち替えて逆さまにした。
　その濡れた手を海の服の中に潜り込ませる。驚いた身体が逃げるように動いた。掌は肌に張り付いて執拗に撫で回す。
「そんなに可愛い顔で怯えるなんて……あたし、興奮しちゃうわ」
　海の服が波打つように蠢く。腰に回していた未沙の手が下がり、大胆に太腿に触れた。
「汗で湿っているわ。海ちゃんも興奮してるのね」
　海はサイドテールを振って懸命に否定した。未沙は太腿の手を動かした。途端に抵抗は弱まった。
「……ああ、ダメ。あたしも感じて、きちゃったよ」
　未沙の手足が不自然に揺らめく。ろっこん「あなたの後ろに這い寄る触手」が発動した。腕と足が発熱したような色の複数の触手に変化して海の全身を搦め捕る。とても優しく、甘くて息苦しい時が始まった。