影身始末　～寝子島辻斬り物語　弐－２～｜リアクション

影身始末　～寝子島辻斬り物語　弐－２～

【不自然なもの】

　籾井教業の立つ元町役場……現儀式場は不気味な静けさに包まれている。
　先ほどまでいたものたちは、すでに消えてしまったようだ。
「ふむ、ふむ」
　といって、やることには変わりが無い。
　ここを守ることこそが、籾井という青鬼に課せられたものだからだ。
　気がつけば影人たちが騒がしい。
　どうやら、この儀式場に侵入者が来訪したようだ。

　さて、その侵入者だが……。
「しつこいなっ！」
　いらだったように影人の一人を切り伏せる。
　どことなく焦っているようにも思える……その人は御剣刀である。
「……」
　その後に追従するように、どこか迷った様子の橘千歳が続く。
　千歳は、悩んでいた。刀と話し合っていたときに感じていた感情……。
『このまま負けっぱなしじゃあ自分が許せない、納得ができない！』
『千歳に傷ついて欲しくない！』
　この二つの感情である。
（……私は、ひょっとしたら枷になってるのかしら？）
　違うはずだと首を振る。
『自分一人責めるのは、刀君の優しさだろうけど、一緒に戦ったのだから、敗北の責任も等分であるべき、ともに戦いたい』
　そう主張した千歳の意見はどこまで刀に伝わったであろうか。
「そこに居るのは学生さんかい？」
　唐突にかけられた声に千歳は思考を中断し、警戒するように刀は声を発した。
「誰だ！」
「あぁ、よかったまだ人が居たんですね」
　手を上げるように姿を現したのは天動記士郎である。
　作業着を脱ぎ、下のシャツを裂いて手のひらに巻きアングル材と自分の左手を結わえるという格好をしているためか、手が上がってるようにも見えない。
「ん、やっぱり味方だった。無事かな？」
　刀君はこんにちはと声をかけつつ現れたのは呉井陽太である。
「呉井先輩……」
　刀は少し驚きつつ挨拶を返す。
　驚いたのは、普段はどこかのんびりした口調の陽太がまじめな口調で話していたからだろうか。
「動きながら話しましょう」
　そう言って、アングル材を記士郎は掲げる。
　彼に寄れば、自動車でこちらに移動したとき偶然陽太と合流し、人が来るか来ないかが判断がつかなかったためそのまま二人で機をうかがっていたという。
　籾井を二人で相手にするには危険であるし、陽太の能力も陽動に使えるかどうかといったところだ。
　そしたらちょうど、刀と千歳が通りかかったということだ。
「というわけで、このまま全員で挑もうと考えています。学生さん達はそれで良いですか？」
　記士郎は刀と千歳に申し訳なさそうに問う。
　千歳、刀……そして陽太はしっかりと頷いた。
　記士郎はそれにどこか複雑な思いを感じた。
学生に前衛をお願いするには、大人として許せない感情がある。
　しかし、今は非常時である。
　色々考えたいことや、聞いてみたいこと……してあげたいこともあるが、それらをぐっと飲み込んで、記士郎は学生である三人に微笑んだ。
「では、挑みましょうか」
　大人である自分が、微笑んでいれば安心感を与えられるであろう。
　そう信じて。