影身始末　～寝子島辻斬り物語　弐－２～｜リアクション

影身始末　～寝子島辻斬り物語　弐－２～

【奇襲　――境内にて――】

　思考の渦、晴れることのない靄のようなものがあった。
　分からないから、手を伸ばす。
　それがどうしても分からなかったから……。
「……斬って、また、斬る」
　この東郷も落ちたものだ、と。落神神社の境内の方へと戻りつつ思う。
　そこまで考えたときすっと、顔を上げ森の方を見据える。
　不自然な森に訝しげに目を細め、配下の影人たちもそれにつられて動く。
　その瞬間、神社の裏手から東郷へと飛び出してきた。
　東郷はそれを見据える……相手は着物を着た女！
「……逝け」
　そう、子夜の素早い模造刀らしきものの一撃が迅速に東郷を襲う、が。
「ふっ」
　息を吐き、腰をかがめるように体を下に傾けつつ、右から左へなぎ払うような神速の刃が子夜の模造刀らしきものを根元からこすり上げるように影刀を振るう。
「折れん」
「……剣豪将軍愛用……の一品……とくとご覧あれ」
　子夜のろっこん【童子切の再現】。あらかじめ模造刀を地面に差し、自分の模造刀を童子切安綱へと上書き再現を行うろっこんだ。
　そして、そこに月が突如現れたかのように躍り出てくる。木から木へとうつりながら、子夜の奇襲タイミングを伺っていたのだ。
「攻撃をする瞬間こそが、貴方にとって一番隙が生じるタイミングです。──卑怯と罵りますか？」
「――キェェェイッ！」
　コンバットナイフを構えた月の一撃はそのまま東郷の背中に吸い込まれるかと思いきや、猿のような叫びを上げ、東郷はそのまま子夜と無理矢理自分の位置と入れ替えるようにぐいっと位置取りを変える。
「……まるで獣」
　獣じみた反射神経に子夜は驚嘆した。
同時に重力には逆らえない、半ばつばぜり合いと化していた故に、そのまま入れ替わるように月と子夜が向かい合い、そして。
「――ッ！」
　無理やり足を地面に押さえつけてそのまま反動を利用して月はバックに飛ぶ。
　そして、月と子夜の攻防が一つの終わりを迎えたとき、影人たちが遅れて動き出す。
　しかし。
「今だ！」
　修の声があたりに響き、月と子夜から離れていた東郷に咲のろっこんメガエラ・フォースが放たれるが、東郷は涼しい顔をして立っている。
　だが、これは足止めだった。
「猫鳴館の座敷童子がー、助太刀するがんすよっ」
「できれば早めに頼んだぞ！」
　荒太郎と修がそれぞれ影人を引きつけるように動く。
　荒太郎は竹をいじったものを、修は竿を武器に影人に斬りかかっていく。
　なお、負傷した瞬間回復が出来るように美咲紀ができるだけ回避専念で動いている。
「大物さんは強そうなので、その相手は腕に覚えのある人にお任せし、私は雑魚さんを相手にしますです」
　そんなことを言いつつ、花を痛ませないようにぎゅっと握りしめた。
「高名な東郷藤兵衛殿とお見受けします。しばし、お聞きしたい事があるのでお答えして頂けませんか？」
「――ほぅ？」
　そして、咲が月と子夜から東郷を引き離しつつ動く。
　月はその隙を狙って、東郷から離脱することに成功。
　影人の間を縫うように撹乱する。
（相手の目的、正体を問い詰め、時間稼ぎ、こちらを無視しようとしたら立ちふさがり一騎打ちだな）
　咲はそう考えて東郷と対峙し、先ほどの質問を投げたのだが、東郷はにやりと笑って言い放つ。
「今の時代（じで）は刀で語れうもんはおらんのか、やれやれ」
　時間稼ぎということは知っている、それだったらさっさと勝負を挑んでこい、それとも自身が無いのか？　少しなら稽古つけてやるぞ？　と。
　そんな事を問われたような印象を咲も離れてそれを聞いていた子夜も受けた。
「――ッ！」
　咲が半ば挑発に乗る形で斬撃を仕掛ける――前に砂をつめた袋を東郷へと投げる。
　袋から砂が飛び出し、東郷を包み込む。
（卑怯と言われようが、卑劣と言われようが生き残る為なら！）
「――……流石」
　咲の心のつぶやきをくみ取ったかのように子夜がタイミングを合わせて安綱で斬りかかる。
　だが、そこに既に東郷は居なかった。
　縮地と間違うくらいの俊敏さを持って、子夜の技を攻撃的にいなしていく。
「何という、力、反射神経……」
　咲があきれたように言う。二人で戦ってもどちらの剣筋に反応されているのだ。
　しかもどこか相手はまだ余裕がある。
「……相手が、油断……しているうちに」
　奇襲は失敗だが、まだいけると子夜は思い、修の方を見る。
　修たちは影人相手に戦っているが、まだあきらめてはいない。
　故に、まだ機会はあると思った。
　落神神社での戦いは続く……。