影身始末　～寝子島辻斬り物語　弐－２～｜リアクション

影身始末　～寝子島辻斬り物語　弐－２～

【大ピンチからの逆転】

「ぐははははは！　ほれほれ、追いつくぞ！」
「影の人速いし！　おっきい影はなんかヤバイし！　たーすーけーてーって感じぃーー！」
　さて一方、アウトレットモールでは竹内音羽と影人の大物である芹沢鴨が追いかけっこをしていた。
　追いかけっこというよりも、完全に音羽が遊ばれているだけに見えるが。
「っあ」
　しかし、何れ体力や気力も尽きるもの、音羽は足をもつれさせてコンクリートの上に転んでしまう。
　鈍い痛みをこらえつつも走ろうとするが、気力が尽きたのか芹沢の方をにらむだけで精一杯だった。
「これ娘、酌をせい！　いや、尺の方が良いか。ぐははは！」
「ふざけるなって感じ！　オヤジ臭い近寄んなだし！」
　しかし、芹沢は容赦をする気が内容だ。
　ぐいっと、音羽のアゴを持ち上げると、そのままその手の指がアゴを締め上げる。
「言うことを聞かぬと折檻が待っておるぞ！」
「せっ、か、ん？」
　息も絶え絶えと言葉を発する音羽。
「いたーいことや傷物にすることだ、んんっ？　何か言いたいなら言わしてやろう」
　ねめつけるように、芹沢は音羽をみる。
　もうだめだ、と絶望が音羽を支配しつつあった……。
そして、音羽は悔しそうにつぶやいた。
「ごめんなさいお兄さん、せっかく助けてもらったけど音羽もすぐそっちに行きます……って感じぃ」
「勝手に殺してくれるな！」
　どりゃー！　とビリヤードのキューを構えた男が乱入する。
　芹沢はひらりと身を躱すと、さっと後に飛びすさり、叫ぶ。
「何奴！」
「名前は典町託志だ、テンチョーって呼んでくれ！　遅くなったな、これで名乗ったぜ」
　にやりと笑う託志。後半の言葉は音羽に向けられた言葉だ。
　そのまま託志は芹沢と音羽を引き離すように間に入り、立ちふさがった。
「ってお兄さん生きてたー！　今のはちょっとカッコ良かったって感じ！」
　ぱぁっと、音羽が笑顔になる。まさに、地獄から一転という感じだろう。
　だが、まだ天国へと行ったわけでもない。
「むむむむぅっ！」
　芹沢が不服そうに唸る。
　その瞬間、間欠泉のような噴射が芹沢を襲った。
「むふ？」
「そっちばかりに気を取られてないで、こっちを見てもらおうか」
　武道が不敵に笑い、ラムネ菓子と炭酸で作った武器を手ににやりと笑う。
「ほかにも居るぞ？」
　その瞬間、芹沢に向けて襲いかかる人影が……二つ。
「どりゃぁぁぁぁぁぁ」
「うらぁぁぁぁなのだ！」
　一人は男性で、傘を持っている。
　もう一人は、女性で、モップを持っている。
　曖浜鴻と後木真央である。
「ぬわぁんのぉ！　これしきぃ！」
　一方芹沢は、完全に振りかけられるジュースを無視。持っていた影刀をぶぅんと、二人に向けて振り回す。
　慌てて防御行動を二人は取るも……。
　がきぃん！
「んな馬鹿な！」
「ふぎゃーなのだ！」
　そのまま二人は体ごと吹っ飛ばされ、コンクリートへと倒れ込んだ。
「……どこからあのパワーが出ているやら」
　武道はそうつぶやくと、ちらりと託志へと視線を合わせる。
（ここは任せていったん彼女を落ち着かせてくれ！）
　そういう目線を送ると、託志は音羽を引っ張りつつ戦闘圏外へと待避していった。
「坊主！　嬢ちゃん！　こいつの馬鹿力を侮ったらやばいぜ！」
　鴻の言葉にはっと気を取り直す武道。
「……今度は後れを取らないのだ」
　過去に何かあったのか、真央はいつになくやる気である。
「平間ぁ！」
「……」
　芹沢がそう叫ぶと、取り巻きの一人と雑魚の影人たちがやってくる。
　こうして、アウトレットモールの戦いは始まった。